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鬼が画面をスワイプすると、矢印がはっきりと10を指すメーターが現れた。そして見えないぐらいの小さな文字で、何個目のメーターかを示す数字も書いてある。
「おかしいなぁ、地獄行きメーターを配布する時に説明書もつけといたはずなんですけど?」
地獄行きメーターは生を享けると同時に配布され、その説明は親の役目とされていた。しかしテツオの親は育児放棄をしていた為、詳細な説明はテツオには伝わっていなかった。ふつふつと怒りが込み上げてくる。
「こんな小さな表示じゃ見える訳ねぇだろう!使えねぇガラクタ作りやがって!俺はてっきり不良品を持たされたと思って、安心して悪さをしてきたのに!」
「ガラクタですって!ひどい…」
突然、鬼が机に突っ伏して泣き出した。
「この装置は…私の同僚が何度も閻魔様にダメ出しを食らい、過労で倒れながら必死に作り上げたというのに…。ガラクタだなんて…。私、とても傷付きました…。と言う訳で、メーター上げときま〜す」
悲愴感を垂れ流していた鬼は、サッと業務モードに戻りメーターを操作して、矢印を3に合わせた。
「ちょ、ちょっと待て!!」
「あ、それからご自分がお持ちのメーターは不良品だと思ったとおっしゃいましたね?それなら何故、申告なさらなかったんですか?あわよくば、そのまま我々を騙そうとしていたという事ですか?」
「そ、それは…」
「閻魔様に対する嘘、欺きは重罪です。と言う訳で、メーター上げときま〜す」
更にメーターがグンと上がり、8を指した。
「待て待て!騙したのはそっちじゃねぇか!最初から俺を地獄に落とす為に、メーターが上がる瞬間を見せないように小細工したんだろ!おい、お前のメーターを見せろ!」
テツオは後ろに並んでいる男のメーターを奪い取る。
「ほら、こいつのメーターには何個目かなんて書いてねぇじゃないか!」
「2個目に入った時から表示される事になってるんですよ。そもそも、善良な皆さんは1個目のメーターしか必要ありませんし、何個目かなんて関係ありませんけどね」
淡々と反論する鬼に、テツオはとうとう怒りを爆発させた。
「俺は認めねぇ!俺は騙されたんだ!こんな分かりにくいメーターじゃなきゃ、俺だって善良になれたはずだ!全部お前らのせいだ!お前らポンコツな鬼達のせいだ!」
「おやおや…。メーターが上がる瞬間を見なかったのも、何個目かの数字を見逃していたのも全てあなたの過失じゃありませんか。自分の非を認めず、そのように悪態をつくのは十悪の一つ悪口の罪に値します。しかもそれを、閻魔様のいらっしゃる閻魔庁で行うなんて…。またまたメーター上げときま〜す。あらら、メーターは最後の8個目に突入してしまいました」
メーターに8(MAX)という数字が表示され、もうテツオには為す術が無かった。
「メーター8個という事で、あなたには阿鼻地獄へ行って頂きます。最下層の特別な地獄ですよ」
「ふざけんじゃねぇ!お、お前、俺が誰だか分かってんのか!?」
テツオは、もはや気弱な学生を脅す時の決まり文句しか口にする事ができなかった。
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