似たもの同士

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 アラサーと呼ばれる時期もとうに過ぎて、今更恋とか愛とかどうでも良いと思っていた。ありがたいことに最近では「結婚しろ」とかそういうことを言う人もいないし、同級生は皆家族を持ったおかげかあまり連絡もない。一人は楽だし、これから先も一人でいいと思っていた。  ――なのに。 「見てください先輩! めっちゃ上手くできたんすよ!」  私より五つも下の男、坂下が無邪気にスマホを私の方に向けて見せる。画面にはカップケーキの写真。 「先輩に言われた通り、オーブンの温度変えたらうまくいったんです! さすがですね、先輩」  はしゃぐ坂下を横目に、私は小さくため息をついた。彼にきっと他意はない。私がお菓子作りという彼と同じ趣味を持っているから話しかけてくるだけ。 「で、あんまりにも上手くできたので先輩にもお裾分けです」  坂下は、大事そうに鞄の中からラップに包まれたケーキを取り出した。ラッピングも何もしていないところが男らしいと言うか、何も思われていない証拠というか。ありがとう、と口の中で呟いて私は鞄を開ける。中にはラッピングされた手作りのチョコレート。私はもう一度、小さくため息をつく。  坂下くん。私はね、恋とか愛とかもう今更どうでもいいって思ってたのよ。今日だって、ただの二月の半ばの一日のはずだった。なのに、なのによ。私はあなたにチョコレートを渡したくて、わざわざ夜更かしして作って、ラッピングまでして。ほんと、自分でも笑っちゃうわ。学生の頃だってこんなことしなかったのに。 「じゃあこれはお返し」  なるべく何も思われないように、顔を見ないで鞄からチョコレートを取り出し、彼の手にのせる。ええっ、いいんですか! と喜ぶ彼は子犬のようで、私がチョコを渡した本当の意味も多分、分かっていない。まあいいか、と私は笑う。彼の眼中にないのは重々承知しているし、渡せただけでも十分だ。 「さ、仕事に戻りましょ」  私はほんの少し赤くなった頬を見られないように、彼に背を向けた。  ***
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