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2:自由
あ、また、外見てる。
わたしの視線の先にあるのは、柳瀬くんの大きな背中だ。
彼はいつも、東校舎二階の教室の窓から、外を眺めている。
そこだけ、空気が違うことがすぐにわかる。
中学校のがやがやした教室じゃなくって、ビジネスビルだとか、大きな病院の一室だとか、そういうちょっぴり、落ち着いていて、わたしにとっては、手や足がむずむずしそうな場所を連想してしまう。
「なに、見てるんだろう」
最初は、そんな小さな好奇心だったはずなのに、いつからか目が離せなくなっていた。
窓の外を眺める彼の、ごろっとしたノドボトケと、赤ちゃんみたいな柔らかそうなほっぺたの非対称的な感じ、ええっと、こういうのアンバランスっていうんだっけ? そういうのが、なんだかすごくいい。
彼の、穏やかで優し気な視線の先にあるものを想像するたび、わたしのなかでは、むくむくとよくわからないものがふくらんでいった。
ねえ、視界にはなにが入っているの?
いったい、なにをみてそんな表情しているの?
「なにが見えるの?」
あるとき、教室にいる人の数が少ないタイミングを狙って、わたしは思い切って柳瀬くんに尋ねた。
「自由が見えるんだ」
彼は、ちらっとこちらを見てそれだけ呟くと、また沈黙を守り、視線を窓の外へと戻してしまった。
……自由?
その二文字が頭のなかをぐるぐるまわる。
彼は不自由なんだろうか?
そんなことを考えてみるけれど、真相はわからない。
ただ、それからというもの、教室の窓の向こうに見える風景が、銀色のフチに四角く切り取られてしまったような気がしてしまう。
本当は、無限に広がっているのに、わたしたちが見ることができるのは、ほんの一部分だけ。
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