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3:遠い
柳瀬くんの成績は優秀だ。
廊下にはり出されるテストのランキング表を見ると、だいたいどの教科も十位以内のところに名前がある。
それだけじゃない。スポーツだって万能だ。
ほかの子たちよりもひとまわり大きな体格をいかして、球技ではパワフルにボールを捌く。
スピードだって、小柄な男子に負けてない。
まさに、エース的ポジション。
「柳瀬、お前、勢いがすごいよな。バスケで向かってこられると、怯むもん。俺」
「そう?」
「味方チームならいいけどさ、敵だとまじ辛い」
「はは、大袈裟な」
柳瀬くんは、困ったように笑う。
あれは、よく見る表情だ。
彼は、できることが多いからって、ふんぞりかえることもない。
いつだって、こう、なんていうんだろう。
淡々と、すべてのことをこなしている。
先生から褒められることも、友達から頼りにされることも、ぜんぶ、一度はちゃんと受け止めるんだけど、すぐに横にすとんと置いて、自分はそそくさとどこかに去ってしまう感じ。
そんな彼は、当然、みんなから好かれている。
それはわたしにとって、ちょっぴり面白くないことでもあった。
教室のすみで大人しくしているわたしにとって、彼はとても遠い存在だ。
近いのに遠い、遠いのに近い、わたしはそんなやるせなさをため息にのせることしかできない。
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