3:遠い

1/1
前へ
/8ページ
次へ

3:遠い

柳瀬(やなせ)くんの成績は優秀だ。 廊下にはり出されるテストのランキング表を見ると、だいたいどの教科も十位以内のところに名前がある。 それだけじゃない。スポーツだって万能(ばんのう)だ。 ほかの子たちよりもひとまわり大きな体格をいかして、球技(きゅうぎ)ではパワフルにボールを(さば)く。 スピードだって、小柄な男子に負けてない。 まさに、エース的ポジション。 「柳瀬(やなせ)、お前、勢いがすごいよな。バスケで向かってこられると、怯むもん。俺」 「そう?」 「味方チームならいいけどさ、敵だとまじ辛い」 「はは、大袈裟な」 柳瀬(やなせ)くんは、困ったように笑う。 あれは、よく見る表情だ。 彼は、できることが多いからって、ふんぞりかえることもない。 いつだって、こう、なんていうんだろう。 淡々(たんたん)と、すべてのことをこなしている。 先生から褒められることも、友達から頼りにされることも、ぜんぶ、一度はちゃんと受け止めるんだけど、すぐに横にすとんと置いて、自分はそそくさとどこかに去ってしまう感じ。 そんな彼は、当然(とうぜん)、みんなから好かれている。 それはわたしにとって、ちょっぴり面白くないことでもあった。 教室のすみで大人しくしているわたしにとって、彼はとても遠い存在だ。 近いのに遠い、遠いのに近い、わたしはそんなやるせなさをため息にのせることしかできない。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加