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7.願い
一週間後、柳瀬くんは転校した。
少し前のわたしであれば、元の世界に戻ってしまったなんて、バカげたことを考えてしまいそうだ。
「寂しくなるね」
美咲がぽつりと言った。
「うん」
柳瀬くんがよくいた窓辺で小さく頷く。
おんなじ景色が見えるかと思ったけれど、それは叶わなかった。
彼の見ていた自由が、わたしの視界には映らない。
「柳瀬くん、どこに行ったんだろうね」
「さあ。わからない」
「そっか。そうだよね」
美咲は珍しく、パンの袋を折り畳むこともなく、鏡を覗き込むこともせず、ただただ話し相手になってくれた。
「うん」
柳瀬くんについては、いろんなウワサが立っていた。
両親が離婚したとか、家族みんなで夜逃げしたとか、よくない話ばっかり。わたしはどれも信じるつもりはない。
柳瀬くんがいなくなった。それだけが、事実だ。
どうか、彼がどこかで幸せに暮らしていますように。
わたしにはそう、願うことしかできない。
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