1:草原

1/1
前へ
/8ページ
次へ

1:草原

草原は赤く()まっていた。 乾いた土の上、いたるところに()えているのは、根の太そうな草たちばかり。 ここから一ミリも動きません! と主張しているように見えるのは、宇宙から落ちてきて、そのまま土に()っ込んだんです、といわんばかりの岩々だ。 そのなかをトリケラトプスが歩いている。 「源川(みねがわ)さん!」 歴史教師に名を呼ばれ、はっとする。 まっくろな、二つの(ひとみ)がこちらを見ている。 「は、はい!」 先生のくるんとカールした毛先(けさき)が視界に入り、わたしはぼんやりと、アンモナイトみたいだ、なんて感想を抱いた。 「わかってると思うけど、ページがぜんぜん違うわよ」 わたしは慌てて、指先で紙をめくった。 「すみません……。えっと……」 「七十八ページ」 アンモナイト先生は、ぴしゃりとそう言って、黒板のところへとかえっていった。 さっきまで(なが)めていたのは、教科書の表紙の裏のところ。 地球の誕生について、本当にざっくりとだけど、説明が書いてある。 歴史の授業中、このページを見ながら、太古(たいこ)に思いを()せるのは、わたしのひっそりとした楽しみのひとつ。 母によると、昔から、恐竜の図鑑(ずかん)を手放さなかったらしい。 わたしはどうやら、うさぎやねこみたいな愛くるしい動物たちよりも、たくましさを感じられる生き物のことが好きみたいだ。 「はい。じゃあ、今日はここまで」 アンモナイト先生がそう言うと、返事をするようにチャイムが鳴った。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加