22人が本棚に入れています
本棚に追加
1:草原
草原は赤く染まっていた。
乾いた土の上、いたるところに生えているのは、根の太そうな草たちばかり。
ここから一ミリも動きません! と主張しているように見えるのは、宇宙から落ちてきて、そのまま土に突っ込んだんです、といわんばかりの岩々だ。
そのなかをトリケラトプスが歩いている。
「源川さん!」
歴史教師に名を呼ばれ、はっとする。
まっくろな、二つの瞳がこちらを見ている。
「は、はい!」
先生のくるんとカールした毛先が視界に入り、わたしはぼんやりと、アンモナイトみたいだ、なんて感想を抱いた。
「わかってると思うけど、ページがぜんぜん違うわよ」
わたしは慌てて、指先で紙をめくった。
「すみません……。えっと……」
「七十八ページ」
アンモナイト先生は、ぴしゃりとそう言って、黒板のところへとかえっていった。
さっきまで眺めていたのは、教科書の表紙の裏のところ。
地球の誕生について、本当にざっくりとだけど、説明が書いてある。
歴史の授業中、このページを見ながら、太古に思いを馳せるのは、わたしのひっそりとした楽しみのひとつ。
母によると、昔から、恐竜の図鑑を手放さなかったらしい。
わたしはどうやら、うさぎやねこみたいな愛くるしい動物たちよりも、たくましさを感じられる生き物のことが好きみたいだ。
「はい。じゃあ、今日はここまで」
アンモナイト先生がそう言うと、返事をするようにチャイムが鳴った。
最初のコメントを投稿しよう!