朴念仁にマカロンを

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 数ヶ月前に開通した遊歩道はこの時間帯は利用者が少なく、この地区の学生からは近道として親しまれている。 「いや、それにしても寒い! 昨日より冷え込んでるんじゃないのこれ」 「いや、昨日より二度高いらしいが……寒すぎるだろ」  学ランの下にジャージを着ている俺でこれなのだ。いくら冬服とはいえスカートは些か寒そうに見えたが、下にジャージを履くのは楓曰く女子のファッション的にナンセンスだとか。とはいえ、それはそれ。 「……ほれ」 「ん、何? もしかして……いいものですかな?」 「まあな……」  楓にカイロを押し付け数分。遊歩道を抜けると銀杏並木が広がっている。二月半ばとなれば既に落葉し、灰一色で彩ったそれは一層冬の寒さを際立たせた。  学ランの襟元から入り込んできた冷たい風に身震いすると、鞄からいそいそとコートを取り出し羽織る。さりとて一度冷えた体がすぐ温まるわけもなく、ただ教室の暖房がかかっていることを祈り校門を潜る。まだ春の気配はしなかった。 ※ ※ ※  四限を終え昼休みを迎えた。今日がバレンタインデーということもあり、教室はいつも以上の喧騒に満ちている。浮き足立つクラスメイトを横目に愛妹弁当を口に運ぶ。茶色を基調としたそれは、アスパラ、人参、トマトで彩にまで気が配られており、妹からの有償の愛を感じた。  無言で食事をし終え、弁当箱を鞄に突っ込むと、手持ち無沙汰になりとりあえず机に伏せる。やることがない時間は退屈で不毛なものだが、寝てしまって何もできない時間は別に何ら罪悪感を感じることなく、寧ろシエスタ制度に則り効率化を図っているとポジティブに捉えることすらできる。  そう自身に言い聞かせ筆箱を枕にうとうとしていると、不意に肩を叩かれ顔を上げると視界に入ったのは杜若流(かきつばたながれ)。遺憾ながら俺の友人である。 「よ、眠れたか月見里(やまなし)」 「あぁ、お前に邪魔されなければ快眠だった」 「おお、なら良かった。いや、なに……桔梗さんがお前のこと呼んでたからさ。がっつり寝る前に起こさせてもらった」 「…………分かった。んじゃ逝ってくるわ」  杜若の視線は「さっさと行け」とだけ訴えかけており、俺は渋々彼女の待つ廊下へと足を運んだ。 「……菖蒲(あやめ)君。貴方あまり女性を待たせるなって習わなかったのかしら?」 「いや、生憎いつも待たされる側だったんで……それで、なんだ」 「……あー。いや、なんだかんだ貴方には迷惑をかけてるから……一応渡しとこうかな、と」 「あ、はい」  手渡されたのはリンツの詰め合わせと高級感溢れるマカロンだった。 「ほら、義理だけど……これ。楓さんから聞いたわよ『お兄ちゃんは女の子の手作りに飢えてる』って」 「いや、飢えちゃいないと思うが……ってことは、こっちの詰め合わせは(アイツ)用か? っつーかこのマカロン手作りなのか」 「ええ、義理チョコならぬ義理マカロンね。チロル一個とかよりお返し選びが楽だって聞いたから試しに今年は贈ってみたのだけれど。あと、マカロンは結構簡単に作れるわ」 「さいですか」
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