朴念仁にマカロンを

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 桔梗との逢瀬を終えると、五限のチャイムが鳴った。文系として純粋培養された俺は五、六限の物理を板書の写経に充て、やけに冴えた状態で放課後を迎えた。  凝り固まった身体を解すように伸びをすると控えていた杜若が耳打ちしてきた。……お前は秘書か。 「そいや、お前桔梗さんに何で呼ばれたんだ?」 「あー、いや、別に大したことじゃない。妹用の友チョコを預かっただけ」 「ほーん」  自分から聞いてきた癖に興味が失せたのか、携帯を弄り始めた杜若を残し、俺は任務を遂行することにした。  他クラス含めてエコバッグ二袋分のチョコを貰ったが、マカロンの印象が思いの外強く、他のがあまり記憶に残っていない。相変わらず秘書の如く控える杜若に手提げを片方押し付け俺は帰路についた。 「……ただいま」  ホワイトデーを考えると気が重くなるが、明日は明日の風が吹くというか……まあ、その時考えればいいか。 「お帰り〜! どう、いっぱい貰えた?」 「ああ、ほら。テーブルの上置いとくから持ってけ泥棒」 「あいあいさ〜」    そう返すと楓はエコバッグからチョコを取り出し、いそいそと冷蔵庫にしまう。 「あ、お兄ちゃん。このマカロンって誰から貰ったの? 手作りなんだろうけどプロよりプロっぽいというか」 「あーそれか、桔梗からだな。そいや、お前『女子の手作りに飢えてる』なんて嘘吐いたろ」  ヒューヒューと微妙な口笛を吹き、目を逸らす楓を軽く小突くと俺は自室は向かった。 ※ ※ ※ 「……全くお兄ちゃんは朴念仁(だめだめ)だなぁ」  マカロンに込められた意味が「特別な人」なのは言うまでもないが、朴念仁と定評のある菖蒲が知る由もない。朴念仁には解らない青写真を脳裏に描くと、微笑を浮かべ楓は台所へ立った。
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