無敵

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 素敵な靴を買った。  何をもってして「素敵」とするかは、人それぞれだと思う。革だとかエナメルだとか、ビジューがついてるかとか防水加工だとか。  私の場合は、ヒールの鋭さだ。  踵の部分だけバイカラーになっているショートブーツ。高さは九センチはあるだろう。アーモンドトゥで、ツヤツヤしたダークブラウン。鏡の前で何度もワイドパンツをはためかせた。かっこいい。綺麗。「あの頃憧れていた大人」になれたような心地。  きっかけは、つまらない男の一言だった。 「キミは可愛げがないね」  そう言った男の爪先を、思い切り踏んづけてやりたかった。あの時の私はどんな反応をしていいのかわからず狼狽えてしまって、何も悪くないのに「すみません」と口にしていて、情け無いことこの上なかった。  今なら、思いっきり踏みつけられる。もうあの人の顔も、名前も覚えていないけれど。    カツカツと響く音は、私の背筋をしゃんとさせる。いつもより高い視界が気持ちよかった。風を切って歩く私の横顔をビルの扉の反射が映す。  私は今、無敵だ。
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