第十章…結のアピール

6/6
837人が本棚に入れています
本棚に追加
/103ページ
「……前にも言ったはずだ。結ちゃんの事を悪く言うなと。これ以上言うなら結でも許さない。」 「許さないならどうするんですか?私を追い出す?」 結が再び僕の胸に顔を埋めて背中に回した手に力を込めて言う。 「嫌われてもいい。何度でも言う。あんな女の何処がいいの?私の方がずっと…」「君は……結ちゃんだから自分が嫌なとこも目立ってしまうのかもしれない。君の方が同じならいいと言う男もいるのかもしれない。だけど僕と結ちゃんは君にはない同じ時間を過ごして来た積み重ねがある。平凡で変わり映えしない地味な毎日だけど、二人で積み重ねて来た時間がある。それは例え君が結ちゃんでも今の結ちゃんには勝てない部分なんだ。僕は今の結ちゃんが大好きなんだ。ごめんね、結。」 言葉を遮り冷たく結を拒絶したが、最後まで冷たく言えなかった事に対し正解か不正解かと悩んでいると結の小さな小さな嗚咽が胸の中から聞こえて、結が僕の胸に手を置き、押す形で体から離れる。 「時間がそんなに大事?謝る位なら嫌いって言ってよ!!私なんか嫌いだって、大嫌いだって言ってよ!私はこれからも結さんの悪口を言うから!だって本当の事だから!愁さんは結さんを美化し過ぎてる!愁さんが思うほど結さんは素敵な女性でも優しい人でもないから!!」 僕の胸に握りしめた手を置いたまま、声を荒げて言った後で、結は俯き深呼吸をし顔を僕に向けた時にはいつもの意地悪な目になっていた。 それを見て僕は警戒をする。      [ ◎→僕が知らない結ちゃんの聞きたくない話をする         ○→結から見た結ちゃんの悪口を延々とする    ] 「何を話しても悪口なら聞かない。結ちゃんと離婚はあり得ないし結と二人で暮らす事もない。結ちゃんが別れると言うならそうするけどその時は結も一人暮らしをするんだ。幸い結ちゃん以外には見えるのだからバイトも出来るし、結ちゃんのお母さんにも会って協力を頼もうと思う。結がここでちゃんと幸せに暮らしていける様に助けるつもりだ。結ちゃんも冷静になったら結の事を妹の様に見てくれると思う。姿が見えなくても認めてくれる。結ちゃんは優しくて思いやりのある素敵な女性だから。」 だから不安だからって結ちゃんの居場所を取ろうとしなくても結の居場所はあるんだよと、僕はそう伝えたくて結に優しく語りかけていた。 結はクスリと笑うと僕から離れてキッチンのカウンターの椅子の前に背を向け、椅子の背を手を後ろに回し持ち立っていた。 ニコリと微笑む表情はゆっくりと意地悪な結の微笑みに変わり、結ちゃんと同じ声が聞こえ始めた。
/103ページ

最初のコメントを投稿しよう!