友情に咲く花

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 イノッチが壁に人差し指をぶっ刺していた。  イノッチが壁に人差し指をぶっ刺していた。  あまりに異様な光景なので二度見してしまった。  高校三年生の三学期、その昼休みはあってないようなものだ。  もうすぐ私立大学への入試。学校が終わればすぐ塾だ。宿題、予習、復習、赤本、昼休みにやることは山ほどある。  俺はみんなが昼飯を食う時間、図書館が一番すいている時間を見計らってそれらを終わらせ、皆が昼飯を食い終わった頃を見計らって売店で昼飯を食うという作戦を実行していた。この作戦の欠点は、昼飯が余り物しかないことと、時間配分を間違えると昼飯を食っている時間に5時限目が始まってしまうことだ。  今日は時間配分を間違えたかも。俺は相当焦りながら、売店に昼飯を買いに行くところだった。なのに。  イノッチが壁に人差し指をぶっ刺している。  なんだよ、どういうことだよ。壁はコンクリだよ。どうやって人差し指第一関節までぶっ刺したんだよ。そんな穴、壁に開いていたっけ? そんで、なんでイノッチはボーっと突っ立っているんだ? なんか、遊んでいるなら楽しそうにしたり、なにかトラブルでそうなっているんなら焦った顔したりしろよ。  俺はイノッチの顔を覗き込むように目で追いながらイノッチの横を通り過ぎた。  イノッチは壁の方を見ながら立っていて、俺の視線に気づいて振り返ることはなかった。通り過ぎきる瞬間にイノッチの横顔が見えたが、その目はバッチリ開いていた。  とにかく、今は昼飯を買いに行くこと。もし、買い終わって、その帰りにも同じ姿勢なら声をかけようと思った。  そのままだった。  あーもう! 俺はイノッチに声をかけた。 「なにしてるんだよ!」
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