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(オモイヲゾウフクシ ワザトナスソノチカラ…… ワガノゾミヲヨミトッタソノジテンデ キョウメイシ フウインヲコワシタ……。コワレカケノフウインナド ハカイスルニハタヤスイコト……)
眉を寄せ、唇を噛み、男は視線を徐々に落としていた。その掌を握りしめる男に、黒い影はどこか恍惚とした声色で続けていた。
(ホウビダ……オマエヲ ワガハイカニクワエテヤロウ……。オマエホドノ ジツリョクシャナラ スグニ ワガソッキントナロウ……)
「戯言を……。私がそんな誘いに乗ると思っていたのか?」
目線をキッと上げ、睨みつけるように男が言うと、黒い影はさらにその大きな口を裂いた。
(モチロンダ。オマエカラハ ワレニニタジャアクナハカイショウドウヲカンジル。コワシタイモノガ アルダロウ……?)
その言葉に、息を飲みまたも男は唇を噛む。
(……サア ワガテヲトレ……ワレトトモニ セカイニハカイヲ……スベテヲ ムへ……!」
そう言って、手を差し出す黒い影は、徐々にその姿を変えつつあった。ただの黒いだけの影から伸びたのは、人の手だ。その手にぎょっとして目線を上げ……
男は思わず身を仰け反らせていた。
男の目の前には、自分とよく似た黒髪の男が微笑んでいた。ただし、その瞳と口は、人のそれとは大きくかけ離れていた。細長い瞳孔が見開かれ瞳は緑色に怪しく揺らめき燃え、頬まで裂けた大きな口からは、鋭い歯がいくつも覗いていた。
(ワガチカラトナレ……クーフ!)
邪悪な声は、黒髪の男を突き刺すように響いた。
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