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北方大陸、禍の危機
――北方大陸――
それは、このアルカタ世界にある大大陸の一つであり、この世界で最も北に位置する極寒の土地である。優秀な魔術学校がある中央大陸ほどではなかったが、魔法文明は比較的発達し、人々への技術や環境提供といった公共面も発達していた。魔力を持たない「マテリアル族」も魔力を持つ「精霊族」も、共存している平和な土地だ。また古くからの光の神の信仰が今も残り、古くからの風習も数多く残る歴史ある地域である。その一方で闇族と言われる邪悪な民の大陸に非常に近く、時折争いや虐殺事件なども起こっており、それらから人々を守るためもあって、主要な各都市が強大な軍事力を持つことでも知られていた。
その北方大陸の一番の港街である「ズスタ」の街――。街の中心に構えた大きな砦は頑丈そうなレンガ作りの建物で、そのいかつい様は街に訪れる人々の目を引いた。その砦の最上階、ある一室で、一人の男が不安げに外を見ていた。
その日は天気が悪いな、と男は感じていた。
無精髭を生やしたあごを押さえながら窓枠に近づく男は、中年男性で威厳のある風貌だった。ガッチリとした体格に重そうな金属製の鎧、羽織るマントはボロボロで、男が数多くの修羅場を乗り越えてきた兵士であることがよくわかる。しかし、胸にはいくつもの輝かしいバッチが付いている。一端の兵士ではない。彼はこの軍の司令官だ。
茶色の短い髪をした頭をガシガシとかき、司令官は深く息を吸った。よくない気配を感じていた。どちらかといえば邪悪な気配だ。
「怪しい天気だな……」
嫌な胸騒ぎは的中する。直後、バタバタと廊下を走る音が響き、その音が近付いてきたかと思うと、今度は勢いよく部屋の扉が開けられた。彼のいる司令官室だ。
嫌な予感を感じつつも、司令官は落ち着いて振り向いた。見れば若い隊員の一人が見るからに青ざめた表情で、司令官を大きな目で見つめていた。
「た、大変です、司令官……! ま、街に魔物が出たと……!」
予想外の言葉に、さすがの司令官も目を見開いていた。
カンカンカンと、けたたましい鐘の音が町中に響き渡る。その音を背景に、俺はまた一つ先の建物の陰に隠れる。町中から人々の悲鳴が聞こえる。そんな人々に向かって叫ぶのは、オレ達ズスタ軍の隊員達だ。街の人々を安全な場所に避難させるため、多くの隊員が走り回っていた。
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