北方大陸、禍の危機

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 こんな緊張感、生まれて初めてだった。剣を握り締める手が、緊張のあまり震えた。訓練で何度も体験したことはあったが、実戦となるとわけが違う。しかも想定外なのは、まさかの魔物との対峙、その上場所がオレ達の街、ズスタの街、ということだ。 「一体どうなってんだよ……ズスタに魔物が現れたことなんて今までないだろ……!」 思わず愚痴が溢れる矢先、壁の隙間から不気味な影を見かけて、俺はとっさに身を隠す。そっと隙間から覗けば、案の定、翼の生えた奇妙な黒い魔物が鋭い爪を地面に突き立てながら歩いている。見た感じ、爬虫類系の闇の魔物だ。尻尾を振りながらとがった頭を振り回している。魔物が禍々しい闇の気配を醸し出しながら、不気味な息を吐き出しているその様子に思わず身震いする。とはいえ、いつまでもここに隠れているわけにはいかない。オレの使命は街の魔物を追い払うことだ。  オレは手に持つ剣を睨んだ。ちくしょう、こういう時に先輩隊員は警備に当たって、肝心の突撃隊は新米隊員だ。 この俺、ジュータは、今年憧れのズスタの軍に入隊したばかり。もともと剣技は得意だが、実戦投入はまだまだ経験薄。だが、オレだってこのズスタ軍の隊員だ。やってやるぜ……! 魔物が通り過ぎたところを見計らって、敵の背後に出た。魔物が気付くよりも速く、俺の振り下ろした剣が敵を切り裂いた。重たい剣の感触が、敵をしっかり切り裂いたことを伝えてくる。魔物が動かないことを確認して、ほっと胸をなでおろした時だった。  やばい音を聞いた。反射的に悪寒が走る。 いや、音、というよりは鳴き声、といった方がいいだろうか。街全体を震わせる不気味な雄叫びだ。見上げれば建物のガラス窓が震えている。港の方向から大きく響いてきたそれは、何か巨大な生物が近付いていることを知らせていた。とっさにオレは港の方角へ向き直った。 「な……なんだ、ありゃ……」 見上げれば、見たこともない大きな黒い影が翼を広げて、上空から舞い降りるところだった。長い首、巨大な刺々しい翼、黒い鱗、太い四肢に長い尻尾……。伝説でしか聞いたことがなかったが、あの姿を見てオレは確信した。 ――そう、あれはドラゴンだ――! まるで黒雲が急に広がったかのように薄暗くなった。見上げていれば、なんとそのドラゴンが急下降してきたじゃないか!
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