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以前見たことのある風景に、俺は思わず肩の力が抜けていた。
「お前な……一応こっち心配して来てみたのに、何のんきに魔物と遊んでんだよ」
「失敬な、遊んでないよ。この子が心配してくれたからお礼を……」
「だからなんで心配してるって分かるんだよ⁉」
思わずツッコむ俺に、クーフはといえば、魔物のあのブヨブヨした体をポンポンなでて、俺の方に歩み寄ってきた。そしてまだ驚いている美女に聞こえない程度の声量で、小さく話しかけてきた。
「なんだか、最近ここは荒れているみたいだね。前より危険な場所だから……お客さんの私達を心配していたみたいなんだ」
「……まさか……お前、例の『アレ』で魔物とも会話できんの……?」
クーフの言っていた術、それ故に聞こえる『音』のことを思い出して問えば、クーフは一つ笑みを浮かべて首を振る。
「会話まではできないよ。考えている音色が聞こえる程度だよ。まあ、彼らはこちらの表情を見て反応してくれるから、そういう意味ではやり取りできるけど……」
「それって十分意思疎通してるぜ……」
思わずツッコむ俺である。
「え、クーフくん、大丈夫なの? 今、魔物に襲われていたわけじゃなくて……?」
「あ、違います。あの子はこちらが攻撃しなければ攻撃的ではない子なので」
「え?え、ええええ?」
クーフの説明に目を白黒している美女の反応は当然だ。俺はミローナさんの肩にそっと触れてクーフの後を進むように促す。
「気にしないでください、先に進みましょう……」
説明もめんどくさいし、理解し難いだろうし、ここはさっさと先に進んでおこう、というのが俺の本音だった。
通路の反対側を進めば、無事反対側の同じ場所にも龍の像を見つけることができた。今度の龍の像を見て、思わず俺は身構えてしまっていた。それは作り物で、本物でないことは頭では理解している。だがその姿を見た時、即座に理解したのだ。
「……こいつだな、港に現れたのは……」
龍の像を見上げ俺が呟くように言えば、隣の男も緊張感ある声で答えた。
「……間違いない……。一つは禍の邪龍だ」
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