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『髪長』だ。彼はそう言って離れた場所で腕を組み、鼻歌を歌い始めた。
僕は──いや、その場の全員だ。全員が、その様子に呆気にとられた。そういう気があるのだろうとは思っていたが、いささか奔放すぎやしないか。だって今回は──
「この中にお前とPairになる人がいたらどうするんだヨ!」
『マイア』が代弁してくれた。
そうだ。今回は自分のペアを道連れにする可能性のあるゲームだ。ワンマンプレイは色んな意味で避けるべきだと僕は思う。
しかし『髪長』は「は?」と、まるで何もわかっていないようで、あっけらかんとしていた。
今にも殴りかかりに行きそうな『マイア』の気持ちは理解できるが、ここで揉めあって後に響くのはよくない。……最悪ファール……イエロー、いや、レッドカードをとられることも、あの主催者ならば十分あり得る。そしたらそれこそ、道連れが起こる。
「あの、落ち着いてください。あの人のペアがいるかは、とりあえずこっちで調べましょう」
幸い『マイア』は素直に僕の声に耳を貸してくれた。渋々ながらも昂る感情を抑え、ああ、と振り上げかけていた拳を納めた。意外と話のわかる人なのかもしれない。
僕が小さく胸を撫で下ろしたのに気付いた『灰かぶり』が、こちらへ、「ナイス」と唇を動かした。わかりにくかったが、目を丸くしているようだった。
……そんなに意外だっただろうか。
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