コクハク様

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 毎年、バレンタインデーが近付くとクラスの女子から決まって出てくるワード──コクハク様。  とある神社の小さな祠には、縁結びの神様が奉られていて、地元ではコクハク様と呼ばれている。ぼくは試したことはないが、噂によるとコクハク様に今まで誰にも話していない秘密を打ち明けると、その対価として意中の人物への告白が成功するという。  はっきりいってぼくは少しも信じていない。だってそうだろう? 秘密を打ち明ける代わりに告白が成功するのだとしたら、今ごろ周りはカップルだらけだ。それに神様ともあろうものが、なにかと引き換えに対価を与えるだなんて、そんなの神様でもなんでもないじゃないか。 「ねえねえ、ヨッチはどんな秘密を打ち明けるの?」 「言うわけないじゃん。今まで誰にも話したことのない秘密じゃなきゃだめなんだから」 「それもそっか」  どうやらヨッチこと、芹沢(せりざわ)陽花(ようか)はコクハク様に願掛けをしようとしているらしい。意外だなと思う。芹沢は、どちらかといえばボーイッシュでスポーツの得意な女の子だ。陸上部に所属していて、走るのにじゃまだからと髪も短くしている。男まさりとまではいかないが、女の子らしいともいえない芹沢がコクハク様に願掛けするとは、本当に女子の中身はよくわからない。
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