コクハク様

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 見ての通りと言われても、あまりに中学時代と違っていて、芹沢のようでいて芹沢じゃないみたいだ。綺麗だねとか、似合ってるねとか。なにか気の利いた一言をと思うが、言葉はどれひとつとして声にならず、そうこうしているうちに芹沢は去っていってしまった。  二十歳になっても、ぼくは相変わらずだ。いくじがない。あの頃、芹沢に対し抱えていた感情は恋だったのだと、ぼくは高校生になってから気付き、何度も告白を試みようとした。彼女の通う高校付近で待ち伏せたり。同じバスに乗ってみたり。でも、ただの一度だって声をかけられなかった。  きっと今日が最後のチャンスだ。  式典が終わったら連絡先を聞こう。それで、少しでも嫌な顔をされたらすっぱり諦めるんだ。でも、もし彼女が快く連絡先を教えてくれたら──その時は、コクハク様の力をお借りしよう。
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