コクハク様

14/17

15人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
「──コクハク様に告白します。ぼく、大野誠には誰にも話していない秘密があります。中学二年生の時、ぼくはクラスメイトの秘密を知ってしまいました。芹沢陽花は自分の告白を成功させるために、友人がかわいがっていた猫を殺し、それを秘密としてコクハク様に打ち明けました。ぼくは、それをかげに隠れこっそりと聞いていたのです」  二月の寒い日だった。学校帰り、ぼくは芹沢のあとをつけ、彼女がこの神社に入っていくのを目撃した。ぼくは手のひらに脇に背中にじっとりと汗をかきながら、彼女のあとを追い、そうして聞いたのである。橋本がかわいがっていた野良猫を殺したという衝撃的な告白を。  そうまでして釣り合いをとって成就させたかった告白相手が誰であるか、ぼくはついぞ知ることはなかったけれど、中学卒業まで彼女に恋人がいるという噂は耳にしなかった。つまり、失敗したのだ。猫まで殺したのに。 「どうか、ぼくの告白にお力をお貸しください」  釣り合いがとれているかどうかは、さっぱりわからない。でも、今のぼくが打ち明けられる秘密といえばこれしかなかった。  コクハク様に頭をさげ、ふと見ると真っ白だったバラが幾分かくすんでいるように見え、ぼくは逃げるようにその場を後にした。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加