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あとで知った話だ。
コクハク様とは、本当は酷薄様、あるいは黒吐様と書くらしい。残酷で薄情な神様は人の秘密を聞くのが大好きで、その対価として告白成就の力を貸してくれるのだそうだ。むろん、諸説ある。
そして、コクハク様に打ち明けた秘密を誰かに聞かれ、その誰かが秘密を話してしまった場合、打ち明けた日から約十年後に死が訪れるという。
この話が本当なら、芹沢陽花を殺したのは紛れもなくぼくだ。彼女の秘密を盗み聞いて、それをコクハク様に話して聞かせたのだから。残酷で薄情な神様は、さぞや、ぼくのコクハクを面白がったであろう。
彼女の死因は今も原因不明となっている。
これは、ぼくが墓場まで持っていかなければならない秘密だ。
でも、ふっと思うのだ。
ぼくのせいで芹沢陽花が死んだという重大な秘密をコクハク様に打ち明ければ、きっとまたコクハク様は大喜びして、ぼくに力を貸してくださるのではないかと──。
そんなことを思いながら遺影を眺めると、供えた白い菊が黒く染まっていくように見えた。
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