コクハク様

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「うん……今日は休もうかと思って」 「そうなんだ」  元気だせよと言いたくて言えない。だって、あまりにもお節介が過ぎる。かといって、ほかに気の利いた言葉も浮かんでこない。芹沢の短い髪が窓から射し込む夕日に光っている。その健康的な髪を眺めながら、ぼくは「じゃあ」と踵を返した。  とんだいくじなしである。でも、失恋した女子を慰めるなんて、そんな高等技術をぼくは持ち合わせていない。だから仕方ない。  とぼとぼと下駄箱へ向かい、そういえば芹沢はどんな秘密をコクハク様に打ち明けたのだろうかと考える。元気で健康的で、裏表のないさっぱりとした性格。そんな彼女に秘密なんてあるのだろうか。  きっと、ぼくと変わらないレベルのしょうもない秘密を打ち明けたに違いない。そうだ。だから、芹沢の告白はうまくいかなかったのだ。芹沢のせいじゃない。秘密などという薄暗いものをもたない彼女だからこそ、コクハク様の力が及ばなかっただけだ。
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