コクハク様

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 ああ、くそ。  コクハク様ってたいしたことないんだね。  そう言ってやれば良かった。  フラれたのは芹沢に魅力がないからじゃなくて、コクハク様の力が及ばなかっただけだって。  そう言ったら芹沢は笑ってくれるだろうか。  ほんとだね、たいしたことないねって笑って、少しは元気になってくれるだろうか。  下駄箱から取り出しかけた靴を押し込んで、ぼくは教室へと足を向けた。まだ芹沢がいたら、今度こそ励ましてやろう。そう思っていたのだけど──。  ガランとした教室で、芹沢はひとり、泣いていた。机に突っ伏し肩を震わせ、泣いていた。  ぼくは今まで芹沢が泣いたところを見たことがない。いつも元気で明るくて、誰になにを言われても笑っているところしか見たことがない。  嗚呼……女の子だったんだ。  唐突にそう思った。  どんなにボーイッシュに見えても、どんなに強そうに見えても、芹沢は失恋ひとつで静かに泣くような女の子だったのだ。
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