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ゆらのは何度も首を傾げながらも、前を歩く慎司の右斜め後ろを歩く。
「何でこっちに歩くんですか?」
ゆらのの疑問に慎司は振り返らずに、「何ででしょうね・・・。自分にもさっぱりわかりませんが・・・。自分の頭の中に描かれている三上さんの財布の痕跡は、あっちの方へと続いているんです。それも、痕跡は新しい」と答えた。
しばらくの間、黙ったままの二人は慎司の歩くスピードに合わせながら街の中を進む。
と、目の前の歩道橋を昇り始めた慎司の後姿から視線を外し、歩道橋の先に目を向けたゆらのは、「あっ!」と、思わず声を挙げてしまった。
「どうかしましたか?」
ゆらのの声に慎司が気づき、足を止め振り向いて聞いて来た。
「あっ・・・、いえ。そうだ・・・。銀行に行ったの忘れてました」とゆらのが歩道橋を降りた先にある銀行に眼を向けて答えると、「そうですか・・・」と慎司は答えてから、「丁度、自分の頭の中の痕跡では・・・。あそこに座っている老人の近くに財布が落ちていますね」と言った。
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