episode 2

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episode 2

 お昼過ぎの事である。  金銀の縁取りがされた深紅のカーテンの前に、豪華な革張りのソファに座る初老の男性か、テレビの報道番組に目を向けている。  と、リビングの扉がノックされ、静かに開かれた。 「先生!そろそろ向かわないと」  細いチタンの縁取りメガネを掛けた男性が、開けた扉の側から声を掛けてきた。  初老の男性は、視線をテレビからリビングの入口に向けると、「おぉ!もうそんな時間か?」と、言葉とは裏腹に慌てる素振りを見せず、着込んだYシャツの上に、高価なジャケットを着た。 「今日の応援演説は誰だったかな?」  初老の男性は、ジャケットを二度三度と直しながら、扉の前にいる男性に尋ねると、彼は、「今度、都知事選に出馬される、川島美佐子です」と答えた。 「あぁ・・・」と、初老の男は気持ちの入らない返事をした。
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