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彼の視線は候補者の女性に向けられているのではなく、彼女を応援しようと後方の車両で待機をしている人物に向けられていた。
それは、仕立ての良いスーツを着込んだ初老の男性だ。
彼は背負っていたデイパックをゆっくりと肩から下ろすと、今度は大事そうに胸の前で両手を使って抱くように持つ。その行動は周囲には怪しまれないようにするためだけの行動である。
女性候補者の長い演説が終わると、彼女は「それでは、こんな私の為にと、わざわざこの場に駆けつけて下さいました、現民党議員で、環境大臣でも在られます、長谷川茂夫先生より、御言葉を戴きたいと思います。長谷川先生!宜しくお願いいたします」と、自分の後ろに立っていた初老の男性を、前に出した。
「どうも。現民党議員で、環境大臣をやらせて戴いております、長谷川茂夫でございます」
長谷川が応援演説を始めたタイミングで、彼に視線を向けていた若者は、スマホを取り出し、環境大臣の姿を写真に撮ると、不気味な笑みを浮かべた。
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