まつりのにわ

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「おはよう、あら、どうかしたの?」  突然の訃報から一夜。普段通り通勤した晴翔に、非常勤職員の女性が話しかけてくるが「ちょっと、寝不足で」と曖昧にやり過ごした。    地元役場の会計課で働いている晴翔は、各部課からひっきりなしに送付されてくる会計伝票をチェックし、支出科目に誤りがないか、押印漏れがないかを探すのが仕事。  ルーティンワークは得意だったが、今日は歯車が上手く噛み合わない。昨日の晩夢に出てきた、体験入部の日の思い出がひたすら頭を巡っていた。    熱いコーヒーを啜り、頭を真っ白にする。いずれにしろ、仕事とは切り離さなければならない。 「帰り、時間あるか?」その週の金曜、退勤時間に声を掛けて来たのは課長だった。鬼のようなチェックの厳しさと冷たい人当たりから恐れられている課長。呼び出しなんて、相当なお叱りを受けることだろう。 「は、はい!」 「玄関で」と言い残し、課長は一足先に出る。他の課員が心配そうに見守るのを横目に、挨拶をして職員玄関を後にした。
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