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本当に気に入った部屋を見付けるまではと、とりあえず築24年のあまり陽の当たらない古びたマンションに住み始めた希美だが、もう既にそこに11年も住んでいて、マンションは現在築35年ということになっている。
二十代の頃は、多少の男性遍歴もあったが、最近は会社でも、めっきりそんな噂も立たない程度である。
それで希美は長かった髪を切り、一人でカラオケに行き、一人で日帰り温泉に出かけ、一人でハイキングのサークルに参加し、一人で神社仏閣を回ったりしている。
カランと金属と木材の当たる、入り口の建具に取り付けられたドアベルを鳴らして、希美はカフェ『マウンテンハット』に入って行った。
希美はいつものカウンターのスツールに一人で座った。
「いらっしゃいませ」
希美より一つ歳の若いマスターが、目がなくなるほどの笑顔で、いつものように希美に声を掛ける。
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