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席替え。それは、私にとって恐怖のイベント。
今まで何度も先生に“くじ引きか先生が席を決めてほしい”と訴えたけれど聞き入れて貰えなかった。先生が多数決を取るといつも私の意見は少数派で、当然のように黙殺されてしまったからだ。
今回も、先生は“友達を増やしましょう”とかなんとか言って仲の良い人同士の席替えを強行した。いつもなら私は、顔色を伺いつつ彩芽ちゃんのグループのところへ行くしかなかったところである。
そう、このクラスは今三十六人。
一班六人なので、彩芽ちゃんのグループに私が入ると丁度六人になるのだ。私の存在は数合わせに丁度良かったのだと、本当は自分でもわかっている。
――本当に、彩芽ちゃんのところに行かなくていいのかな。
私は緊張でひやひやしながら思う。
――だって、彩芽ちゃんの誘いを断ったら、もう二度と仲間に入れて貰えなくなっちゃうかもしれないし……。
先生が無慈悲に“じゃあ、みんなで班を作ってください!”という宣言を出す。彩芽ちゃんが振り返った。私が近づいていくと疑わない顔。
「美優紀ちゃん、おいで?」
「あ……」
誘われるように、足がそっちに動きそうになる。まさにその瞬間。
「羽丘は俺らの班に入るからだめー!」
「はぁ?」
間に割って入ってきたのは、加瀬くんだった。呆気にとられて、彩芽ちゃんが眉を顰める。
「何で男子が来るの?男子と班を作るとか有り得ないでしょ」
「先生は仲良し同士で班を作れって言っただけだぜ。男女で組むなとは言ってねえ、あと、俺のグループには他にも女子いるぞ?」
「だ、だからって困るんだけど、美優紀ちゃん引き抜かれるの!私達の班が半端な人数になっちゃうじゃない!」
「理由はそれだけか?」
加瀬くんの目が険しくなる。
「人数が足りないから羽丘を入れたいだけか?羽丘と友達だからじゃなくて?……まぁそうだよな、マジで仲良しならLINEいじめやったり、掃除で雑巾がけ押し付けたりとかしねぇよな」
いじめ。はっきりそう言われてドキリとした。そして。
「恥を知れ、馬鹿野郎」
断言した加瀬くんは、惚れ惚れするほどかっこよかった。あの彩芽ちゃんが、完全に気圧されるほどには。
「き、きもちわる!」
彼女は負け惜しみのように加瀬くんを睨みつけて言ったのだった。
「もういいわよ!そんなにソイツに興味あるんだ?趣味悪っ」
「男と女で仲良くするとすぐそういうこと言うやついるよな、みっともね。それに、さっきまで仲良しなフリしてた相手をあっさりソイツ呼ばわりか。本性表したな」
「話しそらさないでよ、好きなんでしょソイツが!」
「羽丘のことか?好きだぜ。少なくともお前よりはな」
「――っ!」
完全にやり込められた彩芽ちゃんは、最後に私を一瞥するとそのまま友達のところに戻っていった。私の意見は一切聞かなかったというのが、完全に答えなのだろう。これで完璧に嫌われてしまったかもしれない。そう思うと、背筋が冷たくなる。でも。
「こっちに来いよ、羽丘」
加瀬くんと、その四人の友達が手招きしている。彼らはもっと大人数のグループだったはず。それなのに、六人組を作るため私の席を空けて待っていてくれたのだ。
信じてもいいのだろうか、彼らを。
否、私は。
――信じたい……!
加瀬くんの手を取って、私はこのクラスで初めての友達を手に入れた。
騙されているかもしれない、なんて。
半年後には頭の隅にも浮かばなくなることになる。
気を遣うためではなく、彼らを笑顔にするために。私にもなにかできることはあるだろうか。
冬休み、加瀬くんの家で遊びながらそんなことを思ったのだ。
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