~第一話~ 再開

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 次の日、俺は心配していたが青山先生の言葉に偽りはなく、かなたは何事もなかったかのように登校してきた。  クラスのみんなも心配して、彼女に近しい女子たちがさっそく声をかけていたが、休んだ理由を無理に聞く者はいなかった。  昨日、詮索はしないでやってくれと言った先生の口調があまりにも深刻そうに聞こえたこともあり、さすがに誰も聞けなかったようだ。  そしてかなたは俺にもいつもと変わらず接してきた。  一か月前はクラスが騒然とすることだったが、もうほとんどの人は気にしていない。  例外がいるとすれば、幼なじみのみらいと、昨日なぜかきつい当たりをしてきた西宮さんぐらいだ。  かなたは俺の席に歩いてくると、机を隔てて正面にしゃがみこみ、嬉しそうに笑った。 「えへへ、一日ぶりだね、はるか」 「あ、ああ。まあ、元気そうで何よりだよ」 「あー、はるかってば心配してくれてたんだ。ありがとっ!」 「――ッ! ま、まあな」  一日会わずに彼女の笑顔を見るとやはりドキッとしてしまう。  しかし次の瞬間こちらを睨んでいる西宮さんと目が合い、俺は慌てて視線を逸らした。  さて、この日も昼休みにかなたと屋上へ行ったわけだが、俺の予想がひとつ外れる。  それは告白の件についてだ。  彼女の性格から考えて、『一日待たせちゃったけど、はい、告白のお返事聞かせて』ぐらい言って来ると思い、身構えながら弁当を食べていたが、彼女がその話題について突っ込んでくることはなかったのだ。  頑張ってこちらから切り出そうかとも考えたが、俺の性格上かなり心の準備がいる。  それに、かなたがいつも以上に休みなくマシンガントークをさく裂させてくるので、俺はついにその機会を逸してしまった。 「それじゃはるか、教室戻ろっか」 「そうだな」  屋上を後にしながら、俺は自分に言い聞かせた。  なに、問題ない。  ――俺もお前のことが好きだ――。  そうひとこと言うだけ。今日は無理でも、明日になればかなたが振ってくるかもしれない。その時に言えばいいと。  教室がある校舎の三階まで降りて来たとき、かなたが思い出したようにトイレに向かったので、俺はそこからひとりで教室に向かうことになった。  そして、まるで狙っていたかのようにエンカウントしてしまったんだ。  例の彼女と……。  それは言うまでもなく西宮さんなわけで、俺は思わず尻込みする。  出会うなり彼女は俺の腕を掴んでにらみを利かせ。 「ちょっと、こっち来なさい!」 「え、ちょ、ちょっと!」  ろくな抵抗の暇もなく、俺は人気の少ない廊下の端へ連行された。  連行直後に猛烈な勢いの壁ドンを喰らったことは、たぶん一生忘れないだろう。  いや美人からの逆壁ドンとはこんなに迫力のあるものなのか。  体験者しか知り得ないであろう知識が増えてしまった。 「――っ! ちょ、西宮さん落ち着いてくれ……」 「落ち着いてなんていられないわ! あんた、どういうつもりなの? かなたと毎日お弁当食べるとか、あちこち連れまわすとか。どんな酷い脅しであの子を従わせているのか知らないけど、やってること最低だからね!」  はい? この子今なんと?   到底聞き流せない彼女の発言に、俺の脳みそがフリーズする。  ここまで言われると、ふだんは静かな俺でも黙ってはいられなかった。 「なあちょっと待ってくれよ。なんでそんなこと言われなきゃならねえんだ。俺は何も変なことはしてないし、かなたを脅すわけないだろう! それに、俺から色々と誘ってるわけじゃない。かなたが一緒にいてほしいと言ってくれたんだ。それを幼なじみとして無下にはできないだろ?」  女の子相手にここまでの口調で抗議したことがなかったので、少し言い方きつかったか? などと内心で思っていると、西宮さんは理解できないという表情でしばし言葉を失っていた。 「…………あんた、今なんて言ったの? お、幼なじみ――? ど、どういうことよ!」 「だから、そのままだよ。俺とかなたは幼稚園に入る前からの幼なじみだ。ここ数年は確かに、学校は同じでもクラスが別だったから話す機会減ってたけど……」  彼女はそれを聞いて驚愕の表情を浮かべ、一歩後じさる。 「そ……んな。うそよ」 「信じられないなら、かなたに直接聞いてみればいいだろ。君こそいったいどういうつもりなんだよ。昨日の初対面といい今日といい、なんでそんな俺に対する当たりがきついんだよ。おかしいだろ」  西宮さんはその瞬間、困惑と悲しさと憤りが混ざったような顔になり、急に涙目で震えだした。  これはさすがにやっちまったか? と俺がおろおろしかけたところで俺たちは休み時間があと数分で終わることに気づいた。 「と、とにかく! 幼なじみだとすればもっと考えものね。何も知らずにへらへらしてるようなら、私は絶対あんたを許さないんだからね!」  そう言うと、西宮さんは駆け足で廊下を去って行く。 「――いや、本当になんなんだよ……」  俺は後頭部をがりがりと掻きながらつぶやき、教室に戻った。  
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