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  まあ、そんなこんなで、その日、僕らは地下鉄がまだ十分に走ってる時間帯には家に帰り着いた。 リックとアナがいないとはいえ、彼らのプライベートルームに繋がるバスルームを使うわけにはいかなかった。それもこの家で暮らす重要なルールのひとつだったから。 だから、僕らはいつもと同じに、もう一つのバスルームを交代で使った。 その頃、僕たちが……いや、主に「僕が」かな?  僕らが凝っていたのは、タケシが教えてくれた日本語の「じゃんけん」だ。 勝ったり負けたりして喜んだり嘆いたりしている僕のことを、タケシはいつも微笑みながら見てた。   その日の「じゃんけん」では、僕が勝った。それで、シャワーを先に使うことになった。 「タケシ! 終わったよ」 僕はいつもどおり、シャワーの蛇口を閉めた瞬間、声を上げた。 時間短縮。そうすれば、さっさと次に使ってもらえるだろう? でもその日。 夕食に飲んだビールのせいなのかな。僕はバスルームにローブを持っていくのを忘れてしまったようだった。 しかたないのでとりあえず、ありあわせのタオルを腰に巻いた。 すると、いつもよりちょっと早いタイミングで、タケシがバスルームの扉を開けるじゃないか。 僕は慌ててタオルを押さえ、その場を立ち去ろうとしたけど、同じように慌てているタケシにぶつかってしまった。 おかげで、腰のタオルは取れそうなるし、きまり悪いったらなかった。 僕はタケシの横をさっさとすり抜けて、部屋に戻ろうとしたんだけど、タケシが「バスローブ忘れたのかい? 取ってきてあげる」と、僕の部屋の方に向かっていった。 でも、しばらくして戻ってくると「見つからなかったよ」と、なんだか悲しそうに云った。 タケシのこういうところを、「うっとうしい」って思う人もいたみたいだよね。 でも、僕は嫌いじゃなかった。というかむしろ、タケシって「なんだか可愛いな」くらいに思ってた。   その後、自分でも探してみたけれど、結局、僕のバスローブは見つからなかった。 さっさと着替えてしまえばよかったのに、僕はタオルを腰に巻いたまま、あちこちローブを探し回っていた。 だって、なにかしっくり来ないよね。「あるはずのもの」がどこにもない時ってさ。   「まだ探しているの? ジャック=バティスト」 背後からタケシに呼びかけられた。 僕はひどく驚いて振り返る。 そしてタケシを見たとき、僕はもっと驚いた。 だってさ、ほかならぬタケシが、一体どこから持ち出したのか、「僕の」バスローブを着ていたんだから。 「タケシ……! それ僕の」 どうしたんだろう。ワイン一杯くらいで、そこまで酔っちゃったんだろうか?  僕はあまり文句を云うのも悪いような気がして、そこで口をつぐんだ。 でも、僕の方をじっと見ているタケシの顔には、酔いの名残りは、まったく見えなかった。 そう。タケシは、いつになく鋭いような視線で、僕を見つめていたんだ。 「そんな恰好でいたら、体が冷えちゃうよ、ジャック=バティスト」 タケシはそういって、僕の二の腕に手を伸ばした。 「ほら、冷たい」 タケシは両手で、僕の両腕と肩を擦り始める。 「ちょっと……タケシ!」 僕はタケシの腕を振り払おうとした。 とたんに腰に巻いていたタオルが床に落ちる。すると、タケシは僕の身体に腕を回して、しがみついてきた。 「ごめんよ、ジャック=バティスト。意地悪して。でも、君の裸がどうしても見たかったんだ」 僕はそれまで、タケシのことを「そういう風」に見たことはなかった。 もちろん、何度も云うように、タケシのことは嫌いじゃなかったよ。 でも僕がいつも「そういう意味」で憧れる男性は、骨格のしっかりとした背の高い男だったし。もちろん、当時はまだ、恋人を持ったことなんか一度もなかったけどさ。 つまり、なんというかタケシは、全然「僕のタイプ」って感じじゃなかったんだ。 突然のことに仰天している僕を、タケシはリビングの大きな緑色のソファーへと押し倒した。 あんな細い身体どこにそんな力が? っていうくらいの強引さだった。 タケシにのしかかられ、僕は首筋や髪の毛、まつげに絶え間ないキスを浴びせられた。 そして、僕の身体の何ヶ所かに、体の芯が痺れてしまうようなキスをして、タケシは云った。 「君って、女の子には興味ないんでしょう? ジャック=バティスト。どうなのかなって思って、ずっと見てたんだ」 タケシはバスローブの袖から腕を抜いて、全裸になった。 彼の身体は、真っ白だった。 僕の肌色とは全然違う。磁器みたいな。 よくアジアの人の肌を象牙色なんていうよね。 僕は象牙ってあまり見たことないけど、きっと、このタケシの肌みたいな色なんだろうと思って納得した。 タケシは僕がそんなことを考えている間も、僕の身体に触れ、くちびるを這わせ続けていた。 タケシの舌が僕の胸で止まる。 乳首を舌先で何度も舐めあげられる。すぐにそれは尖って、タケシの舌を押し返しそうなほどに硬く立ち上がった。 「……っぁぁあ」 いったん声を出したら、僕はもう抑えられなかった。 いきなりリビングルームで裸の身体をまさぐられ、耳朶や乳首をなぶられていることの異常さなど、僕の頭からは全部消し飛んでしまった。 ただ、タケシの愛撫に、身体の奥に痺れるように湧き上がる快楽に押し流された。  僕は夢中でタケシのすべすべとした感触の小さなヒップを掴む。 そして、何回も何回もタケシに懇願した。 「もっと……そこ、嫌だ、止めないで、タケシ……」と。 タケシの愛撫は僕の身体の下の方へと動いて行った。 こんな風に身体を触られるのは、変な話だけど、小学校の時にジャン=ピエールにされて以来だった。 いまや僕はタケシのくちびるが、僕の一番敏感な部分に触れる瞬間を、じれるように待ち望んでいた。 タケシは、僕の臍や腰骨に舌を這わせていたが、やがてくちびるを身体から離した。   ああ、やっと……。 けれど、そんな期待に反し、タケシは僕の足首を掴み、足の親指に舌を這わせた。 そして口に含み、舌と口腔でなぶりまわす。 僕の腿の付け根は、もう爆発しそうなほどに熱を帯びて膨れ上がっていた。 タケシだって、それに気づいているはずなのに……! なのに、まるきり無視して、僕の膝の裏側やふくらはぎに、のんびりとキスを続けているのだ。 たまらなくなって、僕は大きく首を振った。 「どうしたの? ジャック=バティスト」 タケシは、コーンの上のアイスクリームを道に落とした子供にでも声をかけるように云った。 「ああ、タケシ……どうしてこんな」  僕はなんて云ったらいいのか分らなかった。 「どうしてって? ジャック、だって君、『もっと』って云ったよね?」  僕をじらすように、タケシは舌で腰骨をなぞる。 「だから、もっと……もっと、そこじゃなくて」 タケシは舌の動きを止めると、いきなり手のひらで僕のペニスを掴んだ。 「ここかい? ここはまだ駄目だよ、ジャック=バティスト。こんなに大きくして、君、すぐにイっちゃうだろう?」 そしてタケシは自分の部屋に戻り、何かを持ってきた。 「ほら、足を大きく開いてごらん」 タケシはまた僕の足首を掴んで股を割ると、ヒップの割れ目に指を挿し入れた。 「……っ!」 タケシから擦りつけられるヌルついてひんやりとした感触に、思わず僕は身をよじった。 タケシは、口で僕の乳首をなぶりながらも、指で僕の割れ目をなぞって捏ねあげる。 「その場所」を触られるのは初めてだった。 もちろん自分でだって、そんな風には触ったことはない。 普通に考えたら、ものすごく恥ずかしいことをされているはずなのに。 タケシの指がアナルの淵をやわらかくなぞると、尾骶骨のあたりから突き上げるような快感が生じ、僕の身体を突き抜けた。 そして、タケシの指が僕の中に入ってきた。 中をかきほぐすタケシの指の感触に、僕の理性は完全に吹き飛んだ。 「君のここって、髪の毛と同じで金色なんだね……綺麗だよ」 タケシはそんなことを云いながら、僕の中に入れる指の数を増やす。 悲鳴のような喘ぎ声をあげながら、僕はタケシの指の動きに合わせて腰をくねらせた。 「ねえ、ジャック=バティスト……もしかして君、初めて?」 タケシは手の動きは止めず、僕の耳元に口をよせて囁いた。 そしてタケシ自身が、僕の中に入ってきた。 今にして思えば、タケシはすごく「上手かった」のだと思う。  男の人を受け入れるのがまったくの初めてだったにもかかわらず、その晩、僕は死にそうなほど感じて、何度も射精した。 決して痛い思いはしなかった。   それから、リックとアナが西海岸にいって不在の間中ずっと。 僕たちはひたすらセックスをしつづけていた。
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