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9 それからはとにかく、僕はタケシの身体に夢中になった。 漠然と男の裸を夢想して、マスターベーションしていただけの僕にとって、タケシとのセックスによって与えられる快楽は、それまでの何とも比べものにならなかった。 リックとアナがいるときには、さすがに家でタケシと寝るわけにもいかない。 僕はリック達が家を空けている日中、ハイスクールを抜け出してでも、タケシとセックスするために家に帰った。   最初に犯した時、タケシは僕を、まるでお姫様のように扱った。 そしてその後の僕は、いうなれば女王様だった。タケシは、僕に尽くして尽くして、尽くしまくった。 僕自身ですら、自分の身体にそんな場所があったことを知らずにいた部分を見つけては、愛撫し、嬲り、タケシは僕に、悲鳴を上げさせ続けた。 挿入する喜びも、彼はじきに教えてくれた。 その日も、タケシは焦らしに焦らした挙句、はちきれそうになった僕のペニスをやっと口に含んでくれた。 でもどうせ、このままイカせてはくれないんだ、タケシは……。 そう覚悟しながらも、僕はタケシの舌とくちびるの感触に次第に意識が遠のいていく。 するとタケシは、僕から口を離し、ちょっとのんびりとした彼独特の口調で囁いた。 「ねえ。ジャック=バティスト、挿れてみたい?」 とはいっても朦朧としている僕に対し、明確な返事は期待していないようだった。 タケシが僕の腰にまたがる。 「ちょっと待ってね、ジャック=バティスト……」 そう云って、片方の手で僕のものを愛撫しながら、もう一方の手で自分の部分をほぐし始める。 そして、僕のペニスを自分の部分にあてがうと、タケシはゆっくりと腰を沈めた。 僕はタケシに締めつけられる。 中って……こんなに溶けそうに熱いなんて……。 「ジャック=バティスト……すごい、大きいよ……すごく当たる」 タケシはめずらしく大きな喘ぎ声を上げながら、腰を激しくくねらせた。 僕はというと、その時はただ横たわって、タケシの腰の動きと僕を締め付ける感触に悶えていた。 「だめ……タケシ、イク、イカせて……!」 無我夢中で叫びながらも、タケシはどうせ、すぐにはそうさせてくれないだろうって、心のどこかで思っていた。 タケシがすぐにでも腰の動きを止めるんじゃないかって。だっていつも、そうやって焦らすから。 でも、その時は違った。 「いいよ、ジャック=バティスト。イッていいよ……ほら」 タケシは甘やかすように囁きながら、腰の動きをさらに激しくする。 僕は思い切り、タケシの中に射精した。 中に入れたまま、しばらくの間、僕はタケシの身体を抱きしめて横になっていた。 ふと、下腹部に当たっているタケシのペニスの硬い感触に気がついた。 すると、すぐに僕のも反応して、また熱を帯びる。 「タケシ……まだイってないね。もっとしてあげる」 そうやってタケシのせいにしたけど、要は僕がしたかったんだ。 だって、一日中バスケットボールやってたっていいって思ってるくらいの高校生だったんだよ。何遍出したって足りっこない。 返事も待たず、僕はタケシを仰向けにベッドに押しつけて、めちゃめちゃに自分のペニスをピストンさせた。 タケシは気持ちいいのかつらいのか判らないような悲鳴を上げていたのに、そんなことには全然気付かないまま、僕はひたすら欲望の赴くまま、ただ激しくタケシを突き上げた。 タケシの腰を抱いていた手がたまたま、タケシのペニスに触れた。 それがさっきよりずっと弱々しい感触になっていることに、僕はやっと気づく。 「ごめん、タケシ、痛い? イヤだった?」  腰を止め、僕はタケシの頬に手を滑らせる。 タケシの顔は涙で濡れていた。 「どうしよう……ごめん、タケシ。僕、我慢できなくて」 「……いいんだ、ジャック=バティスト。好きなだけしても大丈夫だから」 腰を離そうとする僕を押しとどめるように、タケシが、僕のヒップに手を添えた。 「そんな、そんなのダメだよ。タケシ」 本当にヒドイことをしてしまったと思った。タケシに、なんとか償いたいと思った。 タケシの中に挿れたまま、僕は彼の首筋や耳にキスをする。 いつも、タケシが僕にするのを思い出しながら。 乳首を指の先で転がし、もう片方の突起は舌先と歯でなぶってついばんだ。 タケシの息づかいが、途端に激しくなる。冷たかった身体がふたたび熱を帯び始めた。 「ジャック=バティスト、上手だ、いいよ、すごくいい」 そんな風にタケシに誉められて、僕は調子づいた。 タケシの背中から腕を伸ばし、タケシの性器をもてあそぶ。 最初はそっと、触れるか触れないかくらいの強さで。 それから、指先を睾丸と、その少し奥にまで這わせた。 「もっと、ああ、もっと……そこ、ジャック=バティスト」 そんな風に、タケシがねだる声を上げ始める頃には、彼の塊はまた、すっかりと大きく熱くなっていた。 僕はタケシの中に入ったままだった自分のペニスを、ゆっくりと動かす。 今度は、タケシの様子を確かめながら……。 「ね? タケシ、どう? どうするのがいい」 答えの代わりみたいに、タケシは、押し殺しそびれた甘い声を切れ切れに上げた。 「ここ? これでいい? ほら」 僕の動きに呼応して、タケシの中はひくつき、ペニスにまとわりついてきた。 その後はちゃんと、僕にもタケシを悦ばせることができたと思う。 タケシが果てようとするのを、いつも彼が僕にするみたいに無理に止めたりもした。 イキたいと懇願するタケシの様子を、僕は存分に堪能しさえもした。   ついに僕に「許されて」、タケシが激しく達した時、僕もタケシの中に放った。 ふたりの射精が終わる。 僕が呼びかけても、タケシは、ぐったりと動かなかった。 タケシの頬には涙の後がたくさん残っていた。 僕の胸に、急にいとおしさがこみ上げてきた。   ――タケシが好きだ。 眼鏡をはずしたタケシの瞳が、やけに大きくて綺麗だってことにも。 僕はその時、やっと気がついた。 意外と黒目が大きくて、なんだか優しいラクダみたいな目。 華奢で、でも女の子とはまったく違う骨格と、ごく薄いけど男性としての筋肉のついた身体。 ふと、施設での同室だった男の子たちの、まだ大人の男にはほど遠かった肉体を思い出した。 僕はタケシの漆黒の髪に指を滑らせ、何度も何度も優しく愛撫した。 乱れた前髪を撫でつけ、額を指の背でさすった。 そして、タケシの髪に顎を埋めて、僕は囁く。 「タケシ……好きだよ、タケシは僕のこと好き?」 「どうしたの、ジャック=バティスト? 急に」 タケシが、やっとうっすらと目を開けて僕を見た。 「ね……僕がゲイだってわかったの、いつ」 僕は、ずっとタケシに聞いてみたかったことを口にする。 タケシがまぶしそうにまばたきをした。 「うーん、そうだね……最初に会った時かな」 「え?!」 タケシは瞼を薄く開けて続ける。 「君が家に帰ってきてドアを開けて、部屋に入ってきた時から、もう、そうじゃないかって気がついてたよ」 僕は二の句が継げなかった。 「いつ襲おうかって、ずっと機会をうかがってたんだ。なのに、君ったらまったく無邪気だし」 「とんだ……策略家だよ、タケシ」 僕はやっとのことで、こうなじった。 「というか、君は僕のことなんて全然なんとも思ってなかっただろう?」 そしてタケシは、僕がじゃんけんで盛り上がってるのを見てる時みたいに、小さな声で笑った。 「……君ってすごく淫乱だね、ジャック=バティスト。『初めて』だったくせに、服も着ないままで、あんなにいやらしく僕を誘っただろう。そして挿れるのも、すぐこんなに上手くなって」 なんだよ、タケシ。 さっきまで、僕に突き上げられて、死んだみたいになってたくせに! まったく……「食えない人間」って言葉の意味がよく分かった。 すると、いつもみたいにゆっくり穏やかに。 でもどこか突き放した風にタケシが云う。 「『僕が好きだ』って云ったね、ジャック=バティスト。でも、本当にそうかな? 君が好きなのは『セックス』なんじゃないの」  その言葉に、僕はキレた。 気がついたら、僕はタケシの頬を張り倒してた。 これまでの人生で、僕は誰かと喧嘩をしたことなんてなかった。 バスケットボールのチームの連中には、荒っぽいヤツが多かったけど、僕はそんな連中のイザコザに関わることもなかった。 だから、他人を打ったのは、その時が初めてだった。 タケシをぶった掌が痺れるような痛んだ。 その痛みで、僕は我に返る。 タケシはしばらくの間、俯いて微動だにしなかった。 そりゃそうだ。 僕とタケシじゃ、身体も鍛え方もぜんぜん違う。 僕はバスケットをやっていて、身長もタケシより十センチ以上高い。 そんな僕が、思いっきりタケシの頬を打ったんだから。 僕は呆然と自分の右手を眺める。タケシがゆっくりと顔を上げた。 そして、打たれた頬に手を当てるでもなく、ただじっと黙って目を閉じている。 「……僕はね、ジャック=バティスト」 タケシが唐突に口を開いた。 「人の表情を見るのが得意なんだ」 「……?」 「ああ、ちょっと違うか。『人の顔色をうかがう』のが得意なんだ。僕の家は旧家でね。僕は跡取り息子なんだ。上は姉が三人もいて……なんだか物語にありそうなゲイの境遇だよね」 そういうと、タケシはなんだか妙にはすっぱな感じで笑った。 タケシらしくない、そんな笑い声を聞いたのは初めてで、僕はちょっと驚いた。 「親戚や周囲は、僕に色々と期待したけど……僕はともかく、自分が女の子に興味が持てないってことを隠すのに必死だった」 そして、タケシはゆっくりと僕を見上げる。 「十五歳の時には、婚約者まであてがわれた」 ぶってしまったこともまだ謝れないままだったのに、僕はタケシの話に引き込まれてしまい、思わず、 「……婚約者とか、そんなことって、日本では良くあるの?」と尋ねてしまう。 「今どきはそうめったにはないと思うよ」 タケシはまた、乾いた声で笑う。 「だから、なるべく一人前になるのを遅らせようと思ってね。理系の研究畑に進んだんだ。話したっけ? 日本での僕の専門」 僕は黙って首を振る。 「……人間の表情を解析するソフトウェアの開発。最初はもう少し違うことやってたんだけど、研究室がなるべく企業が買ってくれそうな研究にシフトしていてね」 「それって何の役に立つもの?」 「いろいろだね。いわゆる顔認証システムなんかはイメージできるかい? 治安維持や防犯とかさ。高度に顧客の表情が解析できれば、直接的に商売に役立てることもできるだろうし」 僕はなんとも返事ができずにいた。 「研究室に入ったばかりの頃は、サンプル画像の整理に追われてた。それまでも姉や両親の顔色ばかりうかがってたのに、そんな作業をやってたら、他人の表情を読む自分の能力が余計に磨かれちゃったな……」 そして、タケシは起き上がる。 「ジャック=バティスト、そろそろアナが帰ってくる。君はここに居ちゃいけないね、早く。服を着て」 その時には、僕が打ったタケシの頬は、もうひどく腫れてきていた。 「ごめん、タケシ。顔冷やさないと……氷もってくるよ」 半裸のまま、部屋を飛び出そうとすると、タケシが僕の手首を掴んで引き留めた。 かなり強い力だった。 「それは自分でやるから。君は早く着替えて、ここから出て行って」 さらに異議を唱えようとする僕のくちびるを、タケシがキスでふさいだ。 「僕がバスルームから出てくる前に、君はこの家から出て行ってないとダメだ、いいね? ジャック=バティスト」 そして、タケシは服を手にし、バスルームへと向かっていった。
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