13

2/5

90人が本棚に入れています
本棚に追加
/54ページ
そう。 今、思い返せば、あれはスタンの「よくやる手」だったよ。 授業の最初に千五百メートル走があったんだけどさ。その記録を「取り忘れた」からと、授業の終わりに、もう一度コースを回らされた。 記録は、卒業に際しての評価対象になるって話だったから、僕もかなり頑張って走っていた。 その時のタイムは自己最高記録だったし、同期の中でもトップスリーに入るものだった。 引き続き行われた筋力トレーニングのメニューも、いつもよりかなり厳しいものだったと思う。 中距離走でかなり消耗していた僕は、授業終了間際には、ダンベルを持ち上げるのにも苦労するほど疲れていた。 なのに、また測り直しだって?! これまでは、スタンの厳しい指導に対して不満の声を上げる同期たちに、一度だって同調したことのない僕だったけどさ。 さすがに、この時ばかりは顔をしかめてしまったよ。   最初に出した好タイムが惜しくて惜しくて。僕はまた必死で走った。 全員のランが終わって解散になるまで何とか耐えて、その後すぐに、僕はメンズルームの個室に駆け込んだ。 それから、気を失いそうなぐらいもどした。 その日の午後のこと。 最初の講義を担当するトンプソン教官が、入室するなりこう云った。 「諸君の数名に対し、ハンセン教官から伝言を頼まれている」 そして手元のファイルから紙を一枚取り出すと、トレードマークの真っ白な顎髭を撫でながら、それを読み上げた。 「『レスリー・M・モーガン、クリストファー・リーバーマンならびにジャック=バティスト・ミシェル。この三名の訓練生は、本日の全講義終了後、スタンレイ・ハンセン教官のオフィスに集合すること。用件は五分以内に終了する予定。以上』だそうだ」 トンプソン教官は、教室をちらりと見まわして軽く肩をすくめると、 「さて講義を始めるかな」と、テキストを開いた。
/54ページ

最初のコメントを投稿しよう!

90人が本棚に入れています
本棚に追加