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ある日曜日。
僕は教会の帰りに、ダウンタウンに出かけた。
まだ、アルバイトができる歳じゃなかったから、施設からもらえるほんの少しの小遣いを使って出来る程度のこと――例えば、ファストフードを食べたりするためにね。
そう。僕は結局、施設を出るまでずっと、教会学校と日曜礼拝に出席し続けていた。
施設の同世代の友達で礼拝に出る子は、もうほとんどいなかった。
日曜日、彼らは昼前から、さっさと遊びに出かけていく。
学校の子供達と休日を過ごすことも、僕にはあまりなかった。
聖ヴィトワール会の学校は、派手ではなかったけど、普通の公立学校よりも、ずっと教育レベルが高かった。
かなり「良い家」の子達が集まっていたから、彼等と一緒に休みを過ごすのは、僕にとっては色々と都合が悪かったってワケだ。
特に、経済的な問題で……。
そんなこんなの理由で、僕は日曜にひとりぼっちでいることが多かった。
その日も、僕はひとり、Chez Ashtonでローストビーフのサンドウィッチとプーティンを食べていた。
指に付いたグレービーソースを行儀悪く舐めたりしながら、ぼんやり窓際に座っていると、誰かが外から窓を叩いた。
驚いて振り返ったら、そこにはジャン=ピエールが立っていた。
ジャン=ピエールも、ひとりだった。
ちょっと意外な気がした。日曜日なのに、家族やなんかと一緒にいないなんて。
先生くらいの大人の男性には、奥さんや子供がいるに違いないって、勝手にそう思っていたから。
彼は店の入口に回ると、買物を済ませて、まっすぐ僕のテーブルの方へと向かってきた。
トレイには特大サイズのソーセージ入りのプーティンとラージサイズのコールドドリンクが載っている。
「こんにちは、ジャック=バティスト」
ジャン=ピエールは、心なしか学校で会う時よりも明るい声で僕に挨拶をした。
「こんにちは、ムッスィュウ」
僕の返事を聞くと同時に、ジャン=ピエールは僕の隣に座って云った。
「日曜日にひとりで昼食かい?」
僕は黙ってうつむいた。
ジャン=ピエールは、なぜ向かいじゃなくてわざわざ隣に座るんだろう、狭くなるのに……なんて思いながら。
「ムッスィュウは、家族と一緒じゃないんですか?」
沈黙がいたたまれなくて、何とか話をつなげようとしたが、僕にはこんな質問しか思いつかなかった。
「両親はフランスにいるからね、ケベックに家族はいないよ」
ジャン=ピエールには奥さんはいないんだってことが、僕にもやっと理解できた。
そしてジャン=ピエールは、僕よりもずっと遅くから食べ始めたのに、もうソーセージ入りプーティンを食べ終わってしまいそうだった。
「これから何をする予定だい? ジャック=バティスト」
ジャン=ピエールはコールドドリンクのカップからストローとフタを外して、直接口をつけた。
「特別には……ショッピングモールでCDや本でも見ようかと」
もちろん「買える」ほどの小遣いは持ってはいない。
ジャン=ピエールは、僕の返事に軽く頷いてこう云った。
「なるほど。わたしはちょうど観たい映画があってね。どうだい? 一緒に」
僕はとっさになんと返事をしていいものか困ってしまった。ジャン=ピエールは、黙っている僕を見て少し笑うと、自分のトレイを持って立ち上がり、こう云った。
「もちろん、わたしの奢りだよ。さあ、行こうか」
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