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僕がスタンに出会ってから半年強が過ぎた。
つまりは、アカデミー入学から一年弱が経った。
ついに、アカデミー修了の日がやってきた。
式典の日。
僕らは騎馬警官の象徴たるステットソン帽にライディングブーツという礼装に身を包んで、キビキビと集合し、整列をした。
訓練生は皆、長たらしいお偉いさんの挨拶の間も微動だにせず起立していられるだけの筋力と規律を身につけ、また、それを実践した。
そして、僕ら同期全員がアカデミー修了証明を受け取った。
うん、あの「居眠り」ラルフ・ハッチンソンも含めてね。
ラルフが三日間徹夜し、必死に仕上げたレポートを、スタンレイ・ハンセン教官は、深い溜息とともに受け取ったらしい。
そんな噂が、あの後すぐに広がったっけ。
式典の間、同期たちと同じく「休め」の姿勢で、視線をまっすぐ正面に据えていた僕だったけれど、実のところ、意識の方は視野の端にいるスタンの姿にだけ集中し続けていた。
訓練生がまとう「緋色の長上着」を目立たせるためでもあるかのように、教官達は皆、ブルーサージの礼服を着用していた。
スタンはホワイトグローブを手に、これ以上ないほどスマートな立ち姿だった。
晴天の野外。
制帽のつばが、スタンの彫りの深い顔立ちに濃い影を落としていたから、その表情をはっきりと読み取ることはできない。
でも、きっといつも通りの、あの冷たいほどに平静さを保った涼しい顔をしているに違いないって、僕は思っていた。
結局スタンは、女性カデットからのあからさまな好意にも、レスリー・モーガンの反抗的な視線にも、全く何の反応も示しはしなかった。
もちろん、僕が懸命に押し隠してきたスタンへの熱い思いに対しても。
毎期、毎年、自分の前を行き過ぎていく何十人もの訓練生たちの思惑なんて、いちいちスタンが頓着するようなことじゃないだろうね。
そんなこと、もちろん、僕にだってわかっていた。
わかっていたよ、頭では。
カデットたちの初回の配属先は、もう既に通告済みだった。
一週間以内に寮を出て、配属先へと異動することになっている。
僕のポスティング先は「トロント首都圏」。
ここレジャイナからは、すこし遠い。
明日からは、もうスタンを見ることすらもできないんだな……って。
そう思うと切なさがこみ上げる。
アカデミーを無事修了し、はれて巡査見習になれるというのに、僕の心は重かった。
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