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その晩、僕はちょっとめずらしい任務にあたっていた。
まあ、治安関係とだけ云っておこうか。
トロントのダウンタウン――それも夜の劇場街を、僕とパートナーのガードナー巡査部長は、パトロールカーで警戒していた。
二月のクソ寒い夜で、僕もガードナーももういい加減にウンザリしていた。
コーヒーでも飲まなきゃ立ってられない。でも、飲めば飲んだで大変だ。
なんといったって寒いからさ。わかるだろう?
コーヒーのペーパーカップに口をつけながらも、僕らは周辺に視線を光らせていた。
そうやって、しっかりと歩行者をチェックしていたから、遠くから歩いてくる「彼」に、僕はすぐに気がついたんだ。
僕は自分の目が信じられなかった。最初は。
だってこんなところに、いるわけがないんだ。
彼が、スタンレイ=「ストーン・コールド」ハンセン教官が。
その時、僕には、スタンしか目に入ってなかった。
だから思わず、ペーパーカップをサージ=ガードナー押し付け、スタンの方に向って歩き出していた。
でも、何歩か歩いてすぐ気が付いた。
スタンは、女の人を連れて歩いてたんだ。
もちろん、僕はスタンがゲイだなんて、まったく考えていなかったし、スタンに女の恋人がいる可能性については、十分、想像したことがあった。
ただ……。
実際にそれを目にしたらしたで、ひどくこたえたよ。
スタンは女性の腰にぴったりと手をまわして、少しセクシャルな匂いをさせながらも、とてもスマートにエスコートしていた。
それを見た瞬間の僕の気持ちときたら。
本当にみっともなくて、思い出したくもない。
僕は彼女に嫉妬した。
この雌犬、さっさとスタンから離れろよ。
スタンの腰にまわした手を離しやがれ、この豚女。
心の中でそう叫んでいた。
ひどいだろう?
でもいずれ、僕は「この報い」を受けることになるんだ。
そう、そうなんだよ。
きっと今、僕はこの時の報いを受けているんだ――
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