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――熱いくちびるだった。
スタンは僕をこじ開けて、口腔を蹂躙するかのように嬲り、むさぼり、吸い尽くす。
膝が腰が、ガクガクと震えた。
僕の頭の中で真っ白な閃光が炸裂する。
知らない……僕は知らない。
こんなキスは知らない。
タケシのとも、他の誰のとも違う。
これが「キス」だなんて。
これをキスだというのなら……。
今まで、僕がしてきたのはキスなんかじゃない。断じてない。
もう、とても立ってなんかいられない。
僕はスタンの肩に、必死に腕を回していた。
堪えきれない喘ぎ声が洩れた。
すると、僕の中の「誰か」が頭の奥で叫び声を上げる。
あれほどつらい思いをして。せっかく忘れようとしていたんじゃないか?!
このひとのことを。
あの苦しみって、何だったんだよ。それを無駄にする気?! ジャック=バティスト!!
駄目だ、駄目だ。
そんなの駄目だろう?!
自分でも、どうやってそんな自制心をひねり出せたのか、いまだに分からない。
でも、僕は顔を捻って、やっとのことでスタンの焼き尽くすようなキスから逃れた。
「アカデミーを終了してからもずっと、あなたのことを忘れられなくて。公報であなたの名前を探したり……でも、決めたんだ、忘れようって。もう何年も前に」
「それで?」
スタンが淡々と応じる。
僕を抱きしめる腕の力を、まったく緩めないままで。
「勝手だよ。あの時は完全に無視しておいて、今は僕の心に、いきなり上がり込もうとするなんて」
するとスタンが、また僕の顎を乱暴に引き掴んだ。
そして、瞳の奥を見据える。
「では何か? レジャイナで、俺がカデットの寮へ『夜這い』にでも行くべきだったとでも言うのか? お前は」
顎が、スタンの長い指に強烈な力で締め上げられる。
「ずるい! 今さら、そんな格好で姿を見せるなんて」
「何が?」
スタンの表情が、ふと緩んだ。
「あなたが……制服を着ているのは駄目なんだ、見ると……」
僕の口から本心が洩れる。ひどく無防備に。
泣き出したくなるくらいに切なく。
だって、「ブルーサージを着たスタン」なんて。
僕にとっては、凶器そのものなんだから。
逃れられない、致命的な魅力なんだ――
スタンが、僕の顎からゆっくりと指を離す。
「俺に抱かれたいんだろう? ジャック」
アイスブルーの瞳に、ゆらりと笑みが宿る。
戦慄が走るほどに、吸い込まれてしまいそうな冷酷さをたたえた笑みが。
「早く脱がせろ、この窮屈なヤツを」
スタンの低い声が、僕の頭の奥の奥に突き刺さった。
気づくと、僕は乱暴に、スタンの身体からジャケットを引きはがしていた。
――触れたい。
この身体に。
しなやかで力強くて……きれいな。
そう、すごく綺麗なスタンに。
その肌に触れたくて、もう我慢なんてできない――
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