21

1/2

90人が本棚に入れています
本棚に追加
/54ページ

21

21 ――熱いくちびるだった。 スタンは僕をこじ開けて、口腔を蹂躙するかのように嬲り、むさぼり、吸い尽くす。 膝が腰が、ガクガクと震えた。 僕の頭の中で真っ白な閃光が炸裂する。 知らない……僕は知らない。 こんなキスは知らない。 タケシのとも、他の誰のとも違う。 これが「キス」だなんて。 これをキスだというのなら……。 今まで、僕がしてきたのはキスなんかじゃない。断じてない。 もう、とても立ってなんかいられない。 僕はスタンの肩に、必死に腕を回していた。 堪えきれない喘ぎ声が洩れた。 すると、僕の中の「誰か」が頭の奥で叫び声を上げる。 あれほどつらい思いをして。せっかく忘れようとしていたんじゃないか?! このひとのことを。 あの苦しみって、何だったんだよ。それを無駄にする気?! ジャック=バティスト!! 駄目だ、駄目だ。 そんなの駄目だろう?! 自分でも、どうやってそんな自制心をひねり出せたのか、いまだに分からない。 でも、僕は顔を捻って、やっとのことでスタンの焼き尽くすようなキスから逃れた。 「アカデミーを終了してからもずっと、あなたのことを忘れられなくて。公報(ガゼット)であなたの名前を探したり……でも、決めたんだ、忘れようって。もう何年も前に」 「それで?」 スタンが淡々と応じる。 僕を抱きしめる腕の力を、まったく緩めないままで。 「勝手だよ。あの時は完全に無視しておいて、今は僕の心に、いきなり上がり込もうとするなんて」 するとスタンが、また僕の顎を乱暴に引き掴んだ。 そして、瞳の奥を見据える。 「では何か? レジャイナ(アカデミー)で、俺がカデットの(バラック)へ『夜這い』にでも行くべきだったとでも言うのか? お前は」 顎が、スタンの長い指に強烈な力で締め上げられる。 「ずるい! 今さら、そんな格好で姿を見せるなんて」 「何が?」 スタンの表情が、ふと緩んだ。 「あなたが……制服を着ているのは駄目なんだ、見ると……」 僕の口から本心が洩れる。ひどく無防備に。 泣き出したくなるくらいに切なく。 だって、「ブルーサージを着たスタン」なんて。 僕にとっては、凶器そのものなんだから。 逃れられない、致命的な魅力なんだ―― スタンが、僕の顎からゆっくりと指を離す。 「俺に抱かれたいんだろう? ジャック」 アイスブルーの瞳に、ゆらりと笑みが宿る。 戦慄が走るほどに、吸い込まれてしまいそうな冷酷さをたたえた笑みが。 「早く脱がせろ、この窮屈なヤツを」 スタンの低い声が、僕の頭の奥の奥に突き刺さった。 気づくと、僕は乱暴に、スタンの身体からジャケットを引きはがしていた。 ――触れたい。 この身体に。 しなやかで力強くて……きれいな。 そう、すごく綺麗なスタンに。 その肌に触れたくて、もう我慢なんてできない――
/54ページ

最初のコメントを投稿しよう!

90人が本棚に入れています
本棚に追加