22

2/3

90人が本棚に入れています
本棚に追加
/54ページ
そうは考えたけど、普段まめに料理をするわけじゃなし、家にちゃんとした食べ物なんか置いてない。 あちこち棚を漁って、僕はやっとインスタントのチーズマカロニを見つけ出した。 ――そうなんだ。 「この時」から、僕はもう後戻りできなくなった。 奥さんがいる人と知っていて。 僕はスタンと逢うのを止められなくなった。 スタンがモヴァ(携帯)のメッセージで、僕にシフトを訊ねる。 僕はそれに答える。 僕がオフだと判れば、ここに来るっていう連絡が、スタンから入った。 ……もちろん、スタンが「自分に都合が良い日に」ってことだけど。 そして僕は、それを断れない。 シフト明けに、スタンが来るって言ったら、それこそ、制服を脱ぎ棄て一目散に部屋へ帰った。 オフの日だって、大学の授業や最低限の用事以外はどこにも出かけず、なるべく時間を空けて、スタンを部屋で待つ。 何やってるんだよ? 僕は?!  僕の自由な時間、すべてこの人に捧げてる。 ううん、時間だけじゃない。僕は、僕は……。 そうやって、自嘲気味に自分を諌める声も、ほんの数回のスタンとの逢瀬の後には、もう。 あっという間に頭の中から消え失せてしまった。 そうなんだ。 本気で勘違いし出していたんだ、僕は。 僕たちふたりが「恋人同士」かなんかであるみたいに―― でも、どうだったんだろう?  本当は、本当のところは、僕たちって一体、何だったんだろう。 僕はスタンを愛してた。とっくの昔から。 最初にスタンに逢った時から。そして、今だって。 ねぇスタン、僕はそうだったんだよ?  ――僕はそうなんだ。 +++++
/54ページ

最初のコメントを投稿しよう!

90人が本棚に入れています
本棚に追加