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そうは考えたけど、普段まめに料理をするわけじゃなし、家にちゃんとした食べ物なんか置いてない。
あちこち棚を漁って、僕はやっとインスタントのチーズマカロニを見つけ出した。
――そうなんだ。
「この時」から、僕はもう後戻りできなくなった。
奥さんがいる人と知っていて。
僕はスタンと逢うのを止められなくなった。
スタンがモヴァのメッセージで、僕にシフトを訊ねる。
僕はそれに答える。
僕がオフだと判れば、ここに来るっていう連絡が、スタンから入った。
……もちろん、スタンが「自分に都合が良い日に」ってことだけど。
そして僕は、それを断れない。
シフト明けに、スタンが来るって言ったら、それこそ、制服を脱ぎ棄て一目散に部屋へ帰った。
オフの日だって、大学の授業や最低限の用事以外はどこにも出かけず、なるべく時間を空けて、スタンを部屋で待つ。
何やってるんだよ? 僕は?!
僕の自由な時間、すべてこの人に捧げてる。
ううん、時間だけじゃない。僕は、僕は……。
そうやって、自嘲気味に自分を諌める声も、ほんの数回のスタンとの逢瀬の後には、もう。
あっという間に頭の中から消え失せてしまった。
そうなんだ。
本気で勘違いし出していたんだ、僕は。
僕たちふたりが「恋人同士」かなんかであるみたいに――
でも、どうだったんだろう?
本当は、本当のところは、僕たちって一体、何だったんだろう。
僕はスタンを愛してた。とっくの昔から。
最初にスタンに逢った時から。そして、今だって。
ねぇスタン、僕はそうだったんだよ?
――僕はそうなんだ。
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