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「映画はどうだったかい? ジャック=バティスト」 ジャン=ピエールは、僕の肩を軽く叩きながら云った。 「……どう、って、あの」 僕はまたしてもなんと答えてよいか困り果てた。長時間、スクリーンを見続けて、頭も少し痛かった。 「君くらいの歳では、まだ少し難しかったかな」 ジャン=ピエールは、笑い声を立てながら云った。 何も感想を云えないままなのも、あまりにも間抜けなように思えて、僕はなんとか思いついたことを口にしてみる。 「あの……どうしてあの画家の若い方の人は、あの女の人が裸婦画のモデルになるのを勧めたりしたのでしょうか。だって、自分の恋人なのに」 「ジャック=バティスト、君だったら嫌だと思うかい?」 ジャン=ピエールは、僕の顔を見下ろす。 「……良く、解りません。でも」 「君は絵を描く? ジャック=バティスト」 ジャン=ピエールが、急に話を変えた。 「いいえ、苦手です」 僕はバカ正直に答える。 ジャン=ピエールは、僕から視線をそらすと、「わたしは昔、絵の勉強をしていてね」と続けた。 「どうして画家にならなかったんですか? ムッスィュウ」 こんなことを訊くなんて、今思えば、とっても間が抜けている。 ジャン=ピエールは、少しだけ困ったように溜息をつき、「残念ながら、絵で生活ができるほどの腕前ではなかったのだよ」と答えた。 そして、「他に何か思ったことは?」と、僕に訊ねた。 僕はちょっと考えてから幾つかの質問をしてみた。 「画家の奥さんは、元は自分を描いた絵だったのに違う人をモデルにされて、悲しくなかったのかなあ? それに、どうして絵を埋めちゃったんだろう……」 ジャン=ピエールは、微笑んで僕を見下ろしたけど何も答えなかった。 僕は最後に思いついた感想を云った。 「あの映画の中の人は、みんなそんなにあの画家さんが大事なのかしら? 若い画家だって、自分の恋人よりも、あの画家さんを優先させてるみたいだ」 ジャン=ピエールは「なるほどね、面白い」とだけ答えた。 そして、「長い映画で疲れただろう? うちでカフェでも飲んでおいで」と、僕をふたたび誘った。 正直、どうしたらいいか、ピンとこなかった。でも、とっても疲れていたので、座って何か飲むっていうのはとても良い考えには思えた。 でも、このままジャン=ピエールと話を続けるいうのも、少し面倒な気がしていた。 「あの、ムッスィュウ……とても嬉しいのですが、もう帰らないといけないので」 とりあえず、僕はそう答えた。 「何時までに帰らないといけないのかい?」 ジャン=ピエールにそう訊かれ、僕は六時半と答えた。だって、施設の夕食の時間は六時半と決まっていたから、それを逃すと明日の朝まで何も食べられない。 ジャン=ピエールは、腕時計を見ると「まだ時間はたっぷりある、わたしの家はすぐそこだし。帰りは車で送ってあげよう」と云い、僕の肩を叩いた。 それが「契約成立」の合図ででもあるかのようにね。
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