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その日、スタンはダウンタウンで誰かと飲んできた帰りに、僕の部屋に寄ったみたいだった。
スタンの洒落たサマージャケットからは、いつもとは違うシガーの不思議な香りが漂っていて、僕はなんだか凄く興奮した。
シャワーも浴びさせないまま、僕はスタンを強引にベッドに引っ張り込む。
そして、有無を言わさず口に含んで、スタンを射精させた。
気怠げにベッドのに横たわるスタンの背中。
そして完璧な形のヒップに、僕の欲望がさらに燃え立たされた。
サイドテーブルの引出しからジェルを取り出して、たっぷりと右手に塗る。
僕は、スタンのヒップの割れ目に指を滑らせた。
愛撫に応じて、スタンのペニスも、ふたたび欲望にふくれあがる。
でも、僕を眺めるスタンの表情は、まさに「ストーン・コールド」の二つ名に相応しい、冷徹さを保ったままだった。
なんて癪に障るポーカーフェイスなんだろう!
心の奥底に潜む僕の凶暴な欲望に、とうとう火がつけられる。
初めてタケシを犯したときと同じ、あの衝動が。
――僕の心を、身体を乗っ取った。
スタンのすべてを嬲り尽くしてから、はち切れそうな自分自身でスタンを穿つ。
これまで何度、妄想したことだろう。
スタンを犯す瞬間を。
とうとう、僕は彼の中に入った。
歓喜、そして得も言われぬ快感に、僕はすぐさま果てそうになる。
いいや、まだダメだ――
スタンを征服したい。僕に降伏させたい。
この冷徹な完璧な男が、僕に許しを乞うまで犯し尽くして。
快楽でのたうち回らせて――
僕はすぐにスタンの秘所を探り当てた。
そこを激しく突き立てると、スタンは今にも達しそうに痙攣した。
でも、僕は「それ」を許さない。
スタンを激しく犯しながら、爆発しそうに張り詰めた先端を握って放出を押しとどめる。
そうやって僕は思う存分、スタンを嬲り倒した。
激しい喘ぎを押し殺すこともできずに、スタンが切ない声を上げ続ける。
僕の嗜虐的な快楽が、ますます高まった。
――そして、とうとう。
スタンが僕に屈服した。
あの「スタンレイ=ストーン・コールド」に懇願の声を上げさせたのだ……と。
そのとき僕は、有頂天だった。
まるで、世界を征服した気分だった――
ねえ、僕は本当にバカな男だと思わないかい?
さあ――
僕たちの夏の休暇の話をしようか。
実現しなかった、僕とスタンの夏休みの話。
その日も、僕の狭苦しいベッドでセックスをした後、スタンと僕はいつもと同じく気怠く身体を横たえながら、ポツリポツリと話をしていた。
スタンに「夏の休暇はどうするの?」って訊いたのは、確か僕の方。
「なにか」を期待してたわけじゃない。
むしろその逆で、きっとスタンは奥さんとどこかに行くんだろうなって、切ない気持ちになっていたんだ、僕は。
「今年はまだ予定がないのだ」と、スタンがそう云ったっけ。
その言葉尻が、なぜか妙に気に障った。
だから、僕はスタンに絡んだんだ。
「今年は」って? じゃあ、去年までは奥さんとどこに行ったの? とかさ。
そんな風にね。
恥ずかしいよ。後から思い出すと。
僕がそんなこと、云えた立場じゃないのに……。
でもスタンはさ。そういう時は大抵、僕の言葉に腹なんか立てないんだ。
さらりと話の矛先をそらし、逆に僕に「お前はどんな休暇を過ごしたいのか」って聞き返した。
正直、返答に困ったよ。
僕は、騎馬警官になってから休暇らしい休暇を過ごした事なんかなかったから。
家族も恋人も居ないしね。
休暇のシーズンは、いつも誰かのシフトをカバーをしてた。
僕の答えを待って、スタンが黙ったまま、あの甘い匂いのシガーを燻らせているから、僕もついつい真剣に考え込む。
それで、ふと思いついたんだ。
昔観た映画のことをね。綺麗な森の渓流でフライフィッシングをする映画だ。
それで僕が「フライフィッシングをやりたい」って答えたら、スタンは目を丸くしてた。
そういえばさ、僕が「バーベキューをしたことがない」って云った時も、「ワインを飲んだことがない」って云ったときも。
同じ表情をして、呆れてたっけ。
だって、仕方ないよ。僕は「施設」で育ったんだから。
そして、スタンは微笑んで云ったんだ。
アルゴンキンに釣りに連れてってくれるって。
嘘みたいだった。嬉しくて僕は泣き出した。
スタンと休暇を過ごせるなんてさ。夢みたいだろ?
でも――
「そんなこと」が、実現していいはずなかった。
だからさ。
それは本当にはならなかったんだ。
そして、その約束をした日が。
僕がスタンに逢った最後の日になったんだ。
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