24

1/1

90人が本棚に入れています
本棚に追加
/54ページ

24

24 その日、スタンはダウンタウンで誰かと飲んできた帰りに、僕の部屋に寄ったみたいだった。 スタンの洒落たサマージャケットからは、いつもとは違うシガーの不思議な香りが漂っていて、僕はなんだか凄く興奮した。 シャワーも浴びさせないまま、僕はスタンを強引にベッドに引っ張り込む。 そして、有無を言わさず口に含んで、スタンを射精させた。 気怠げにベッドのに横たわるスタンの背中。 そして完璧な形のヒップに、僕の欲望がさらに燃え立たされた。 サイドテーブルの引出しからジェルを取り出して、たっぷりと右手に塗る。 僕は、スタンのヒップの割れ目に指を滑らせた。 愛撫に応じて、スタンのペニスも、ふたたび欲望にふくれあがる。 でも、僕を眺めるスタンの表情は、まさに「ストーン・コールド」の二つ名に相応しい、冷徹さを保ったままだった。 なんて癪に障るポーカーフェイスなんだろう! 心の奥底に潜む僕の凶暴な欲望に、とうとう火がつけられる。 初めてタケシを犯したときと同じ、あの衝動が。 ――僕の心を、身体を乗っ取った。 スタンのすべてを嬲り尽くしてから、はち切れそうな自分自身でスタンを穿つ。 これまで何度、妄想したことだろう。 スタンを犯す瞬間を。 とうとう、僕は彼の中に入った。 歓喜、そして得も言われぬ快感に、僕はすぐさま果てそうになる。 いいや、まだダメだ―― スタンを征服したい。僕に降伏させたい。 この冷徹な完璧な男が、僕に許しを乞うまで犯し尽くして。 快楽でのたうち回らせて―― 僕はすぐにスタンの秘所を探り当てた。 そこを激しく突き立てると、スタンは今にも達しそうに痙攣した。 でも、僕は「それ」を許さない。 スタンを激しく犯しながら、爆発しそうに張り詰めた先端を握って放出を押しとどめる。 そうやって僕は思う存分、スタンを嬲り倒した。 激しい喘ぎを押し殺すこともできずに、スタンが切ない声を上げ続ける。 僕の嗜虐的な快楽が、ますます高まった。 ――そして、とうとう。 スタンが僕に屈服した。 あの「スタンレイ=ストーン・コールド」に懇願の声を上げさせたのだ……と。 そのとき僕は、有頂天だった。 まるで、世界を征服した気分だった―― ねえ、僕は本当にバカな男だと思わないかい? さあ―― 僕たちの夏の休暇の話をしようか。 実現しなかった、僕とスタンの夏休みの話。 その日も、僕の狭苦しいベッドでセックスをした後、スタンと僕はいつもと同じく気怠く身体を横たえながら、ポツリポツリと話をしていた。 スタンに「夏の休暇はどうするの?」って訊いたのは、確か僕の方。 「なにか」を期待してたわけじゃない。 むしろその逆で、きっとスタンは奥さん(ニーナ)とどこかに行くんだろうなって、切ない気持ちになっていたんだ、僕は。 「今年はまだ予定がないのだ」と、スタンがそう云ったっけ。 その言葉尻が、なぜか妙に気に障った。 だから、僕はスタンに絡んだんだ。 「今年は」って? じゃあ、去年までは奥さんとどこに行ったの? とかさ。 そんな風にね。 恥ずかしいよ。後から思い出すと。 僕がそんなこと、云えた立場じゃないのに……。 でもスタンはさ。そういう時は大抵、僕の言葉に腹なんか立てないんだ。 さらりと話の矛先をそらし、逆に僕に「お前はどんな休暇を過ごしたいのか」って聞き返した。 正直、返答に困ったよ。 僕は、騎馬警官(マウンティ)になってから休暇らしい休暇を過ごした事なんかなかったから。 家族も恋人も居ないしね。 休暇のシーズンは、いつも誰かのシフトをカバーをしてた。 僕の答えを待って、スタンが黙ったまま、あの甘い匂いのシガーを燻らせているから、僕もついつい真剣に考え込む。 それで、ふと思いついたんだ。 昔観た映画のことをね。綺麗な森の渓流でフライフィッシングをする映画だ。 それで僕が「フライフィッシングをやりたい」って答えたら、スタンは目を丸くしてた。 そういえばさ、僕が「バーベキューをしたことがない」って云った時も、「ワインを飲んだことがない」って云ったときも。 同じ表情(カオ)をして、呆れてたっけ。 だって、仕方ないよ。僕は「施設」で育ったんだから。 そして、スタンは微笑んで云ったんだ。 アルゴンキンに釣りに連れてってくれるって。 嘘みたいだった。嬉しくて僕は泣き出した。 スタンと休暇を過ごせるなんてさ。夢みたいだろ? でも―― 「そんなこと」が、実現していいはずなかった。 だからさ。 それは本当にはならなかったんだ。 そして、その約束をした日が。 僕がスタンに逢った最後の日になったんだ。
/54ページ

最初のコメントを投稿しよう!

90人が本棚に入れています
本棚に追加