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ジャン=ピエールの部屋は、まるで雑誌や映画に出てくるようなところだった。 そんなに広くは無かったけど、なんというのか、モダンでシンプルな家具があって、物があまりないような。 絵を描くような道具も見当たらなかったし、本もあまりなかった。 とにかく僕が漠然と考えていたような学校の先生の部屋って感じじゃなかった。 僕は、白い革張りの変わった形のソファーに座らされた。ジャン=ピエールは、カフェオレとビスケットを出してくれた。 映画で疲れた目や肩が大分ほぐれて、僕はジャン=ピエールの出してくれたビスケットとカフェを、美味しく食べたり飲んだりした。 「ムッスィュウは、今はもう絵を描かないのですか?」 何か話をしなければならないような気になって、僕は隣に座っているジャン=ピエールにこう訊ねた。 「たまにはね、描くよ」 ジャン=ピエールは、自分のカフェオレボウルをテーブルに置いた。 「観てみるかい?」 そう尋ねられ、僕はとりあえず頷いた。 ジャン=ピエールは、立ち上がり、奥の部屋の方へ入っていく。 しばらくして、幾つかのスケッチブックとカンバスを抱えて戻ってきた。 ほとんどが風景画で、歴史地区や旧市街のどこかを描いたものだった。 「綺麗な絵ですね」 僕は本心からそう云った。 ジャン=ピエールは黙ったまま、絵を見ている僕の様子を眺めていたけど、突然こう云った。 「君を描いてみてもいいかな」 面食らって視線を上げ、僕は慌てて云った。 「僕、僕……あんな映画みたいな大変なことできません」 ジャン=ピエールは、一瞬、間を置くと、大爆笑を始めた。学校では、そんな姿を一度も見たことはなかった。 「いやいや、あんなこと、普通はモデルにさせたりしないよ。心配しなくても」 ジャン=ピエールが、笑いながらこう云っている間、僕はきまり悪げに自分のジーンズの膝の薄くなったところをじっと見ている以外なかった。 やがて、笑いの発作をおさめると、ジャン=ピエールはうつむいている僕の顔を覗き込む。 なおもうつむいていると、ジャン=ピエールは人差し指の背で、そっと僕の頬を撫でた。 「やめ、やめてください……ムッスィュウ」 反射的に身体をそらし、僕はジャン=ピエールの指から顔を離した。 ジャン=ピエールは僕の体の横に手をついて、僕の上に覆いかぶさるように身体を傾けた。 自分でもなぜかは解らないけど。 ……その時。 僕は「ジャン=ピエールにキスされる」んじゃないかって思った。 もしかして、少し「それ」を期待していた部分もあったのかもしれない。 ジャン=ピエールは、そうしなかった。けれど、僕の予想もしなかったことが、その後に待っていた。 彼は片手で僕の肩を抱きしめると、座面についていた方の手を、僕のジーンズの上に滑らせた。 その掌は、すぐに僕の下腹部に達した。ジャン=ピエールはジーンズの上から僕の一番敏感な部分を、ゆっくりと掌で包み込んだ。 その瞬間、僕は軽い悲鳴を上げて飛び上がりそうになった。 自分ではもう何度もその部分に触れた事があったけど、他人から、しかも大人の男の人から触られるなんて初めてだった。 その手を払いのけようと思うのだけど、頭の中が真っ白になって何も考えられない。 ジャン=ピエールは、片手で器用に僕のベルトを外し、ジーンズのファースナーを下した。彼は僕のアンダーウェアの中にまで手を入れて、僕のペニスと睾丸を包み込み、撫でさすり始めた。 ジャン=ピエールの手は大きくて、その感触はいつも自分でするようなものとは全然違っていた。   彼の掌や指がうごめくたび、僕は自分でもびっくりするぐらいの悲鳴を上げていた。 息が苦しくて死んでしまいそうな気がした。 ジャン=ピエールはもう片方の手も使って、僕のジーンズとアンダーウェアを脱がせると、両方の手を使って、僕のものを愛撫し始めた。 こんなに熱く大きくなったことは、これまでに無いんじゃないかっていうくらい、僕は勃起していた。 ジャン=ピエールは僕のペニスを手で愛撫しながら、身体をかがめ、僕の胸にキスを始めた。Tシャツをたくし上げ、乳首を舌先でころがす。 痺れるような刺激が身体中を駆け巡り、僕は思わず身体を激しくくねらせた。 ジャン=ピエールは黙ったまま、僕の身体を弄び続ける。 突然、僕の胸から顔を上げると、今度は手で弄んでいた僕のペニスに舌を這わせ始めた。 ペニスの上を滑っていく舌の感触が、背中から首筋、頭の中を焼き尽くすような刺激となって僕に襲いかかった。 「逃げなくちゃ」 その刺激に対して、僕は反射的にそう感じた。こんなのって、いけない。 「い、いやだ……ムッスィュウ」 僕はソファーから立ちあがろうとした。 今でこそ、僕の身長は百八十センチメートル以上あるから、どちらかといえば大柄な方だと思うけど、その頃の僕ときたら、まだどうかするとクラスの女の子達よりも小さかったし、身体も華奢だった。   だから、腕を少し動かして、肩や腰を押さえつけるだけで、ジャン=ピエールは簡単に、僕の動きを封じることができた。 そうやって僕を押さえつけながら、ジャン=ピエールは、口の中に僕のものを深く含んだ。 「あ、あっ……」 喘ぎ声をあげながら、どうしてこんなことになってしまったんだろうと思うと、僕は恥ずかしいやら情けないやらで、堪らなくなった。 でもペニスは、僕の気持ちなどお構いなしに、ますます熱くなっていく。 まなじりから、涙がこぼれ落ちた。 固く閉じていた瞼の中で白いフラッシュが何回も瞬くような感じがして、腰が激しく痙攣した。 僕は、ジャン=ピエールの口の中に射精してしまっていた。 痙攣がおさまるまで、ジャン=ピエールはずっと、僕のペニスを口に含んでいた。 「……口でされるのは、初めて?」 ジャン=ピエールは、僕のものからゆっくりと口を離すと、精液で濡れた自分の唇を掌で擦った。 「ああ、神様、お許しを」 「……神様? お前はそんなものをまだ、信じているのか、ジャック=バティスト?」 ジャン=ピエールは、吐き捨てるように云った。いつもの彼らしくない刺々しい口調で。 そして僕の手首を取って、掌を自分のスラックスのジッパーの部分にそっと押し当てた。 昨晩、同部屋の男の子達が自分達を慰めている様子を想像しながら自慰してしまったことが、ふと僕の頭に浮かんだ。 そんなこと、ジャン=ピエールが知っているわけもないのに、僕は恥ずかしくて、頭に血が上るのを感じる。 「触ってごらん……自分でするみたいに。ほら」 ジャン=ピエールは、自分のスラックスのジッパーを下ろすと、僕の手をさらに強く自分に押し当てた。 そんなこと……できない。 でも、ジャン=ピエールのものは、もう燃えるように熱くなっていて。 その熱を感じたとき、「それ」にじかに触れてみたいという気持ちが、僕の中でひどく高まった。 ジャン=ピエールのアンダーウェアの中に指を差し入れて、先端に触れる。 僕は指先にそっと力を込めた。彼は微かにうめき声をもらした。 さらに奥に手を入りこませる。僕はいつも自分でするように、両手でそれを軽く包み込んだ。 ジャン=ピエールのペニスは僕のよりも長くて、両手を使っても、全部を包むことは出来なかった。 僕は、その先端を親指で撫でながら、両手を上下に左右に、そっと動かした。 ジャン=ピエールは、だらりとソファーに寄りかかり、腰を前の方にずらす。そして、着ているものをみな足首まで下げて、僕がもっと触りやすいようにした。 「ああ、ジャック=バティスト。上手だね、そう、そうだよ」 ジャン=ピエールはこう云いながら、僕の髪の間に指を滑らせた。 僕が精液を飲んだのは、その時が初めてだった。 ジャン=ピエールは僕の頭を強く押さえつけ、自分が達する時に、僕が口を離そうとするのを妨げた。 ペニスの痙攣が収まって、ジャン=ピエールが僕の口から自分のものを取り出した後、彼の精液にひどくむせてしまって、僕は洗面所に駆け込んだ。 その後、ジャン=ピエールは、約束どおり僕を施設まで送ってくれたけど、果たしてその間に何を話したのか。何も話さなかったのか。 そのことだけは、僕は少しも思い出せないままだ。 どうして、あのときジャン=ピエールの言いなりになってしまったんだろうと、思い返してみる。 ジャン=ピエールに対して、何か特別な思いを抱いていたわけじゃないしね。 ジャン=ピエールと「そんな行為」をすることは、その後、二度となかった。 僕がすぐに、学校を卒業したからというのもあるけれど。 街のどこかで、偶然ジャン=ピエールと出会うようなことさえ、一度だってなかった。 ジャン=ピエールがどんな顔の男だったのかすら、今はもう、はっきりと思い出すことができなくなった。僕にとって、彼はそんな程度の男性だ。 そうだな。あれはたぶん。 単なる好奇心。 他の男の子達が、女性とのセックスに興味を持つのと同じようなこと。 そう思いたい。 でも、ジャン=ピエールに関してはね。 あの後も教え子に似たようなことをして、捕まって。 足首にGPSなんかを装着されたりしてないだろうな……などと。 警官になった今、彼のことを思い出せば、最後はいつも、こういう結論になる。
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