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施設を出発する日は金曜で、セメスターは、まだ正式には終わっていなかった。
朝食が終わり、子供たちが学校へ出払い、建物はガランとしていた。
病気で学校を休むようなことでもなければ、僕たちが施設のこんな様子を見ることなど、ほとんどない。
ベッドのシーツを剥ぎ、ピローケースと一緒にリネン室に持って行った後は、もうすることもなくて。
僕はスポーツバッグ一つだけの荷物をベッドの端に置き、枕もとの椅子に座って、ぼんやりと中庭を眺めていた。
十年以上過ごした場所から去るというのに、これといった感慨もわかなかった。
何だか他人事のようにも思える。
「玄関に迎えが来ている」と、施設の職員のヤンが僕を呼びにきた。
約束の時間ぴったりだった。
「ジャック=バティスト、荷物は? おや、これだけかい?」
リックは僕のバッグを持つと、待たせてあったタクシーに積み込んだ。
僕は振り返ってヤンと握手をした。何人かの職員が玄関に集まってきてくれて、元気でとか、寂しくなるわとか、ありきたりな別れの言葉を云っていく。
ここを出て行く子供を見送るのは、彼らにとって日常の光景だ。僕もこれまで数えきれないほど見てきた。
ひととおり皆に挨拶が終わって、僕とリックはタクシーに乗り込んだ。
「お仲間は皆、学校へ行ってるんだね?」
リックはシートベルトを締めながら云った。僕にもベルトをするよう念を押すのも、もちろん忘れていなかったけれど。
「はい。でも今朝、食事どきに挨拶してあります」
僕はベルトをバックルし、リックに答えた。
「アナはうちで待っているから」
リックはそう云うと、タクシーを発車させた。
施設の玄関から敷地の外に抜ける直前、教会の裏手を通った。ふとベル神父様のことを思い出し、その時になって初めて、僕の中に寂しさがこみ上げてきた。
きっと今、自分は泣きそうな顔をしているに違いない。
そう思って、ことさらに窓の方に顔を向ける。
と、教会の裏口に立っていらっしゃるベル神父様が、僕のぼやけた視界に入った。
はっきりとは見えたわけじゃない。ほんの一瞬のことだった。
でも、あの服や髪の感じ……。
僕は思わず腰を浮かせて窓に張り付いた。車はあっという間に行きすぎてしまった。
「どうしたの? 戻るかい」
驚いたリックが、すぐにそう云ってくれたけど、僕は首を振った。
その時、色の抜けた僕のジーンズの腿のところに紺色のシミがいくつかできて、僕は自分が泣いていることに気がついた。
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