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その頃、ホテルと棟続きにあるショッピングエリアのカフェで周子と知治はくつろいでいた。だが少し前から知治のスマートフォンは震えっぱなしだ。
「……やれやれ、俺たちの眼力も落ちたな、あの長身美女が男だったなんて」
だから金を返せという文句がつづられている、自分たちも知らなかったと返信したのが間違いだった、慰謝料をよこせとうるさい。
「お?」
天音をあてがった男からもメッセージが来た、逃げられたというのだ。
「こりゃあまいったね、長身美女が助けに入ったか」
「え、じゃあ10万円、そっくり返金?」
周子が知治にもたれかかったまま聞いた、今日の収入が失われる。
「……まあ、別の子紹介しますってしますか、誰か空いてんだろ?」
言われて周子がスマートフォンを取り出し、スケジュール管理のアプリを開く。二人とも仕事用とプライベートで使い分けていた。
「空いてるのは一人ね、あと一人は1時間後。さらに30分待てば三人空くけど」
「お、じゃあ嬢を二人つけますで許しを請うか。嬢たちの取り分減らしゃいいべ」
知治の言葉に周子はうんうんと頷き、すぐさま呼び出すメッセージを送る。仲介あっせんなど、本当に楽な仕事でいい、こうして座っていれば大金が手に入るのだ、周子は上機嫌だ。
「もう周子の娘は使えないかなあ、実の娘なら使い道ありそうだったけど」
多少の文句を封じ込めるのも楽そうだ、そしてひたすらせっせと働かせることができそうだと踏んでいたが。
「呼び出してみるわ。怒るのがいいかなだめるのがいいか、ひたすら謝るか──あ、ムカつく、ブロックされたみたい」
電話を発信しようとしたが受け付けないことにそう判断した、まさにその直前、悠希がそうしたほうがいいと進言したことなど知る由もない。
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