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聞いたのは女性の隣にいた若い男だ、にやにやといやらしい顔で見ているのが気になり天音は他人でいようと思ったが、
「娘よ、会うのは何年ぶりかな」
言われてはたをその顔を見直した、天音の記憶には遠い女性だ、小学1年生の時、突如いなくなった母・周子の面影は、確かにあった。
「……ママ……?」
「ああ、生き別れちゃったっていう?」
男が大きめの声で言うことに、違うと天音は思う、それは悠希もだ。天音の母が行方不明になったことは過去に聞いていた、それは生き別れとは言わないのでは。
「久しぶりね、元気?」
言われても天音は素直には喜べなかった、会いたいと願っていた時期はとうに過ぎていた。両親がいつのまにか離婚していたことに全て諦めがついていたのかもしれない。
年配の男女二人は笑顔で店に入ってきた、天音の顔を覗き込むように見る。
「美人さんね」
「ああ、美人さんだ、周子が若いころから美人だったって分かるわ」
「もう、知治も口がうまいわね」
親子と言っていいほど年が離れているようだが、仲の良さから恋人か夫婦なのだろうと想像できた。
「こんなところで会えるなんて。今は横浜に住んでるの?」
言われ天音は首を左右に振り答える。
「ううん、こっちの大学に受かって」
「大学! そっかー、もう大学生なのね! 本当に大きくなって!」
周子は遠慮なく天音の髪や肩を撫でた、そんなことをされれば確かにこの人は母だったのだと思えてくる。
「よかったらゆっくり話でもしたら? 積もる話もあんでしょうよ」
天音の心を読んだのか知治が言う、周子はすぐに嬉しそうに「そうね」と声を上げたが、天音は困ってしまう、積もる話はあるだろうか?
「今日は俺らも用あるし、後日?」
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