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#7 危険な誘い
母と娘の再会は翌週となった。桜木町駅で待ち合わせをし、そのまま近くのホテルへ移動しカフェで歓談する。
正直なことを言えば悠希は会うことには反対だった、これは勘だ、なにがと言われても困ってしまうが、周子や知治と会うのはよくないように感じた。天音にスケジュールを聞かれ、辞めたほうがいいと言いかけてやめる。勝手に出て行ったとはいえ母は母だ、会うことを無下にするのは気が引けた。一度は会い言葉を交わし、それで終わりにすればいいと一緒に会うことに決めた。
会話は思いの他弾んだ、離れ離れになっていた10年の思い出を語らいあうのは意外にも楽しかった。
その中で周子と知治は恋人だと教えてもらった、籍を入れる予定はないが事実婚だと周子はあっけらかんと話す、結婚はこりごりという言葉に天音は引きつった笑みしか返せなかった。
天音と悠希は大学で知り合った友人だということにした、周子は千尋と何度か会っている、天音を送ってきた悠希とも。おそらく覚えていないだろうが、万が一悠希の存在と結びついても面倒だと思えた。
他にも様々な話題を思いつくままに話したが、しかし互いに核心には触れようとしないのが分かる。天音は大学の名前すら伝えるのは躊躇った、周子は現在の住まいを知らせない。
30分ほど経った15時過ぎ、空気が震えた、知治のスマートフォンが鳴ったのだ。画面を確認し周子の腕をつつく、周子はうなずいた。
「──ねえ、ちょっと人がいないところで話せないかな」
周子は身を乗り出すと、声のトーンを落として言う。
「ん、人がいないとこ?」
「そう、パパのことよ、その──よりを戻せないかな、って」
「──え?」
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