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何故と天音は思う。結婚はこりごりと言ったではないか、しかも事実婚と言える相手もいるのに。
「ね、そんな話をしたいから、ちょっと部屋に行きましょ」
「部屋?」
「ホテルに部屋を取ってるの、天音と二人きりで話したいから、うちの人とお友達は別の部屋で待っててもらって」
「私はここで待ってます」
悠希がすぐに言ったが、知治が立ち上がり一緒に行こうと促した。
「いえ、私はここで」
悠希は固辞したが、
「いつまでかかるか分かんねえし、ここの飲み物は金かかるけど部屋のはタダで飲み放題だぜ?」
「お気遣いなく」
別に支払いは自分ですると断ったが、知治に腕を掴まれ立ち上がらされた。
「いいから来いよ。あんたのために用意した部屋なんだよ」
悠希はムッとしてその手を振り払ったが、不安げな天音の視線と合い抵抗を諦めた。
カフェがある3階から客室がある階へ行けるエレベーターに乗り込む。道中周子が天音と並び歩こうとするのを悠希が半ば無理矢理引き寄せ横につくと、天音の手のひらに指文字でメッセージを残す。
『なにかあればすぐにれんらく』
天音は頷き、スマートフォンが入っているショルダーバッグを胸に抱いた。
9階に着くと周子が天音に降りるよう促す、手を繋いでいた悠希も続こうとしたが、知治がその体を手で押し引き留めた。
「え、なん」
「ここは親子水入らずなんだ、君は別の階」
言って閉ボタンを押し続ける、締まるドアに二人の手は離れた。
「天音ちゃん」
声をかけたが天音は周子に肩を抱かれ止まることもできずに顔だけ振り返った、その顔もドアの向こうに消えてしまう。
(なんなんだ)
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