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その少し前、先にエレベーターを降りた天音と周子が廊下を歩く。
「お金に困ってるのよ」
父に金の無心でもしてほしいというのか、天音は小さくため息を吐いた、悠希に聞かれたくないとここまで連れてこられたのだと判断できた。
「……連絡先は知ってるんでしょ、パパに直接頼んだらいいんじゃない?」
父は少なくとも母をまだ思っているのだろう。母が出て行ってすぐから、今日まで、母がいない環境に苦労もあったのにずっと他の女性の影など見せなかった。その母が困っているというのなら工面はするのではと思った。
「え、パパ? ああ、お金貸してほしいって? ああそうそう、昔は都合つけて欲しいなんて頼んだこともあったのよ、でもパパはケチでのらりくらりと断られ続けて諦めたわ。だから仕事をね、その手伝いをあなたにもしてほしくて」
「私、バイトは禁止されてるから」
きっぱりと断ったつもりだが。
「大丈夫よ、毎日じゃなくていいし、こうやってちょっとした隙間時間にできるし、まあ概ね1本2時間なんだけど、時間は短くも設定してもいいし。ああ、今日はダメよ、2時間きっちり頑張ってね。通常は1日に3本がノルマなんだけど、あなたなら1本でも許してあげる」
「本?」
「でも頑張る子は4でも5でも6でもやるわ、1本の時間を短くして数こなしたほうが売り上げとしては上がるから達成感があるみたい、そのへんはタクシーと一緒ね。同じ2回3回やるなら一人を相手にするより、二人、三人のほうが手取りが増えるから楽なんでしょうね、あなたもそうなってくれたら嬉しいな」
「え、タクシーって……なんのこと?」
「ああ、もちろんそれは少し慣れてからでいいのよ、最初からそれじゃあ、あなたも疲れて嫌になっちゃうもんね。中にはハードなプレイが好きな人もいるから、そんなの続くと本当に体はボロボロよ。あ、太客はつけてあげるからね。今日も特別な子だからって値段を吊り上げたのにあっさり売れて逆にびっくり。幸い過激なプレーはしない人だからあなたを安心して任せられるわ、十分楽しませてあげるのよ」
「プレー……って!」
ようやく母の会話の内容が理解できた、自分に売春をさせようというのだ。
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