#7 危険な誘い

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拉致されたと言ったのが効果があったのだと悠希は安心した、ホテルスタッフは女性とそれなりの体格の男性が三人もいた。しかしこのままでは天音の裸体が晒されてしまう、男を離すと床に落ちている天音のブラウスを拾い上げた、それすら破かれているのを見て怒りが再燃する。ブラウスもかけたが自分が来ていたジレを脱ぎ天音の背にかけ、天音を抱きしめた。 先頭を切ってその姿を見たのは男性スタッフだった、だが天音の姿と床の惨状を見てぴたりと足を止めると後から来ていた女性スタッフを押し出すことで天音の様子を知らせる。女性スタッフは息を呑みベッドに近づいた。 「大丈夫ですか」 大丈夫でないことは分かる、だが他にかける言葉が見つからなかった。天音は小さくうなずき答えに変える。 詰め寄る三人の男性スタッフに囲まれた男が声を荒げる。 「俺は悪くない、犯罪じゃない、その子は成人だ、問題ない!」 落ち着いてくださいなどとなだめるスタッフの声が消されるほどの声だった。男の言葉にスタッフたちは顔を見合わせてしまう、ホテルをどう使うかは勝手と言えば勝手だが、このようなことに使われている事実は認めたくない。 「──場所を変えましょう」 わめく男の声が聞こえないところへと女性スタッフが声をかけ、自分が来ていた制服のジャケットを天音の背にかけた。元よりジレと破れたブラウスだけでは天音の体は覆い隠せない、ジャケットの襟を引き締め体を隠す。 「歩ける?」 悠希が優しく声をかけ、天音を支え床に立ち上がらせる。女性スタッフが天音のものと見える手回り品をかき集めた──床に落ちた下着やブラウスの破片も。 「おいおい、私も帰るよ、関係ないんだ」 大きな動作で帰ることを主張しながら出入口に行こうとするのをスタッフが引き留める、その脇を悠希と女性スタッフが天音を守るようにして通り過ぎた。 事務所に入ると女性スタッフは二人に椅子を勧め、スタッフ用に用意されているコーヒーを紙コップに注ぎテーブルに置いた。
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