#8 今はただ抱きしめて

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#8 今はただ抱きしめて

天音と悠希は1階の出入り口から出て、桜木町駅へ向かい歩いていた。 「家まで送るわ」 悠希が言う、さすがに一人にはできなかった、しかし天音は首を左右に振る。 「……こんな格好で、おうちに帰れない……」 未遂だったとはいえ暴行のあとを残しては道も歩けないと思えた、従業員の更衣室を借りて下着も付け直したが男が触れた物をいつまでも身に着けているのもおぞましい。 「そうね、どっかで買おうか。このあたりなら何でもあるし」 天音は首を左右に振った。 「こんな格好で買い物なんか行きたくない……ユキさんち行っちゃだめ? ユキさんの服貸してほしい、その前にシャワーも浴びたいから、シャワーも貸してほしい」 悠希はうんうんと頷いた、確かにその通りだ。 「でも私の服じゃ大きすぎだわ、天音ちゃんがシャワー浴びてる間に私が買ってこようか。趣味とか違うかもしれないけど」 「全然いいよ……ユキさん、趣味いいもん、任せる」 天音は弱々しい笑みに、悠希は胸がえぐられる思いだ。 「でもうちじゃ遠いから、今のホテルに言って少し休ませてもらう? さすがに部屋を貸してくれるんじゃないかな」 天音はこればかりは飛んで行ってしまいそうに首を左右に振った、早く現場から遠ざかりたかった。 「そうね、そうよね、ごめん」 言葉にされなくても気持ちを理解できた、天音をしっかりと抱きしめる。 「……本当に、警察へ行かなくていいの?」 シャワーを浴びてしまっては、暴行の証拠がなくなってしまう、犯罪として訴えるならばこのまま警察か病院などへ行き、証拠の保全をすべきだ。 「……舐められただけで……その、入れられてはいない、から……それなら、多分、忘れられる……」
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