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そのために来たのだ、そうだと思い出し悠希も靴を脱ぎ室内に入ると、クローゼットからバスタオルを出した。それを渡しながらエアコンのスイッチも入れる。
天音は受け取ったバスタオルを抱きしめた、その沈痛な面持ちに悠希は耐え切れず天音を抱きしめる。
怖かっただろうに──そんな天音を一人にするのは不安だったが、自分の服ではやはりサイズが違い過ぎる。家に帰るまでの間くらい気にせず着ていればいいのだろうが。
「──すぐに戻るから」
うん、と小さな声で返事をする天音の髪と背を撫でてから離れた。
玄関の鍵がかかる音を聞いてから天音はバスルームへ向かう、風呂場とトイレは別で、十分な広さがある風呂場だった。
風呂場のドアの取っ手にバスタオルをかけ、衣服を脱ぎ始める。借り物のジャケットとブラウスはいったんリビングに置きに行き、再度脱衣室に戻ると正面にある洗面台の鏡に自身の姿が映った。
頬に赤みが残っている、男に叩かれた痕だ。だがそれ以外に傷は見受けらない、男に女性を傷つける趣味はなったのは幸いだった。だがおぞましいほどの優しさで指と唇と舌が這わされたことを思い出しぞっとした。好意を持たぬ見知らぬ男とできる行為ではなかった。
一刻も洗い流したいと乱暴に衣服を脱ぎ風呂場に入ると、シャワーの温度を上げて頭から浴びた。
溢れ出る涙はシャワーと共に流れた、押し殺した嗚咽もシャワーが消してくれる。
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