あの日と同じ空の色で

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 それから三日連続で彼女のもとへ通ったが、僕はただ同じように彼女からアイスを買って無言で食べただけだった。  それでも四日目。 「今日も暑いね」  僕は彼女に初めてそう話しかけてみた。  彼女はそれには応えず、同じスピードでうちわを振りつづけた。  十台ほど車をやりすごしてから、僕はまたおもむろにいった。 「でも、ずっと曇ってて、青い空と太陽が恋しくなるよね」  彼女はこちらへ顎先を向けた。が、その顔には表情はなかった。 「あ、いや、君は助かるよね。ずっと外にいるからさ」  僕は慌ててそう付け足した。 「あのさ」 彼女は囁くように言った。 「太陽は気まぐれだと思わない?」  唐突な問いかけに僕は頷きもせず、少し上目に彼女を見た。 「春は優しく穏やかで、夏は炎のように焼き尽くす」  彼女の腕が汗で光っている。 「秋はさわやかな光を注いだかと思えば、冬は一日の長さを縮めてしまう・・・でも」 「でも?」 「気まぐれなのは、実はこの星の方だよね」 「え」僕は口をつぐんだ。 「暑いも寒いも、昼も夜も、雨も風も日照りも雲も、この星の都合なのに」  彼女が曇り空を見上げる。  そして、空のある一点を指差した。 「太陽はいつもそこにいるのにね」  彼女の言うとおりだった。  この分厚い雲の向こうに太陽があるはずだった。  思わず僕は彼女の横顔を覗き見る。 「私、辛くなったら、目を閉じて思い出すようにしてるの」  彼女は目をつむった。 「太陽はいつもそこにいるよ。青い空だってちゃんと、いつもそこにあるよ」  彼女は歌うように続けていった。「この世界が終わるまで」 「気まぐれなのは、太陽じゃなくてこの星だし、神さまじゃなくて私なの」  が、その太陽の話をした日を最後に彼女とは会うことがなかった。  彼女がいた場所は、人影はおろかビーチパラソルやクーラーボックスもなく、ただ草むらだけが一面に広がっている。  タイヤの路面を蹴る音と蝉の鳴き声が、背中でしていた。
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